「だから、今度東京へ行ってくる」
あっ、と千代は肩越しに顔だけで振り返る。
「実は、この間お話しした清須川家の元女中頭についてなんですが、今日紗江子さんから手紙が届きまして、居場所がわかりました」
「本当か!」
湯船の縁に腕を掛けて凭れていた雪人が、驚きに身体を起こした。パシャンッと湯が跳ねる。千代は慌てて視線をそらす。
「な、名前は寺野ツルヱさんといって、今は東京に住んでいるようです。なので、私も東京に行こうと思っていたところなんです」
「それは都合が良い。俺ひとりで行くよりも、千代も一緒ならただの旅行に見えるしな」
茜は、女中を使ってまで一乗家の様子を把握しようとしていた。
今はもう、紗江子を使ってこちらの情報を得るのは不可能となったが、茜のことだ、別の方法でまだこちらの行動を監視している可能性もある。
彼女の人脈は未だに謎が多い。
もし、雪人ひとりが東京へ行けば、会社関係――特に今は融資で動いていると予測されてしまうが、二人であればただの観光旅行を装えると雪人は言っているのだろう。
千代は雪人と目を合わせ瞬きで頷いた、のも束の間。
「ひゃっ!?」
湯の中で忍び寄る雪人の手に気付かず、腹に何かが絡みついたと思った時には、千代は雪人に抱き寄せられていた。
大きく千代が動いたことで風呂の湯がざぶんと波立ち、身体が前後に揺すられ、否が応でも雪人と肌が擦れる。
「ゆ、ゆゆ雪人さん!? さっきは、こ、ここでは、ななな何もしないって……!?」
熱い湯に浸かっているというのに、不思議なことに背中に当たる雪人の胸板の熱がしっかりと伝わってくる。
口から心臓が出そうだ。
「ああ、声が響くからな」
「だだだだっ、だったら――!?」
雪人の腕から逃れようとする千代の耳に、色気を帯びた低い声が、鼓膜を撫でるように響く。
「なに……千代が少し声を我慢してくれたら問題ない」
「――っあ! ……ゃ……っ」
金魚鉢で魚が跳ね回るような水音に、千代の微かな声はかき消される。
唐突な快感に反射的に足を閉じたが、雪人の手は容赦なく太股の隙間に割り入ってくる。そして、身体の奥へと彼の指が射し込まれた。
「随分と簡単に飲み込まれたな」
「ぅんん――ッ」
後ろから耳朶を食まれながら囁かれれば、ゾクリと全身を快感が襲った。
パシャンと、また湯が暴れる。
一本だけだった指はすぐに数を増やし、中で暴れるように蠢いている。
「やぁ……っ、雪人、さんっ……だめ……ぇッ」
「駄目じゃないだろ。千代の中、湯より熱くてとろとろにふやけてて……気持ち良さそうだ」
好いところを掌で押さえ付けられ、指で浅いところを叩かれる。ビリビリとした電流のような刺激に、千代の足は痙攣が止まらない。風呂場の熱気なのか汗なのか、千代の首筋には、雫が何本も伝い落ち、しっとりと輝いている。
その首筋に、雪人が噛みつくように顔を埋めた。
「はッ……! ~~~~ッッ」
ヂュッと肌を強く吸われ、下腹部にゆるゆると与えられていた甘さに慣れていた千代の身体は、突然の強い刺激に背中を弓なりに反らせた。
大きな声が漏れそうにり、慌てて口を両手で強く塞ぐ。
「良い子だな、千代」
胸はやわやわとした刺激を送られ続け、下腹部はずっと疼いている。
「ふぁ……っぁ」
千代の腰は無意識に、背後にある雪人の固いものに擦り付けるように揺れているのだが、熱でふやけた頭では気づけない。
「――っ」
白い湯気にまぎれて、雪人が熱い息を吐く。
ほんのちょっとの悪戯ですませるつもりだった雪人だが、目の前で乞うように妖艶な動きで細腰を押し付けてくる千代に、目眩すら覚える強い情動を感じていた。
普段は清楚で、無垢が着物を着ているような千代が、喉の渇きを覚えるような艶姿を晒している。自分だけしか知らないという特別感と独占欲が、さらに雪人を興奮させていた。
必死に声を抑えている千代が、時折堪らずに漏らす艶声が、さらに雪人の鼓動を早める。
彼女だけ満足させて終わるつもりだったが、自分まで限界にきている。
『失敗したな』と雪人は、口の中で舌打ちをした。
風呂場の熱気と、身体の内側に溜まり続ける熱に、千代は虚ろな目で「雪人さん」と、うわごとのように繰り返し呟いている。
「千代」
雪人が中を可愛がっていた指をズルリ引き抜けば、千代は「あっ」と身を震わせ、くったりと雪人の胸に倒れ込んだ。
しっとりと濡れた前髪がひたいに張り付き、はぁはぁと色の籠もった息を上げ続ける千代に、ぐらりと目眩がした。どうやら抜いた時の刺激で果てたようだ。
『この官能的な光景に抗える奴がいたら、是非ともその忍耐方法を教えてほしい』と、雪人は歯を食いしばった。
『残念ながら、自分はそこまで聖人君子ではない』と、雪人は心の中で千代に謝りながら、彼女の身体を浴槽の縁に凭れかけさせた。
「ゆき、と、さん……?」
眉を垂らしてとろけた目で振り向いた千代を、雪人は後ろから抱きすくめ、指で口を塞いだ。
「ごめん、俺が我慢できない」
激しく湯が暴れる音の波間に、肌を打つ音と千代の猥声は沈んでいった。
【第七章:縁をたぐり寄せて】
1
大寒も過ぎた頃。雪雲が空を重たくした東京の日暮れ時。
千代と雪人は、とある料亭の一室で並んで座っていた。
純和風建築の門構えが壮麗な二階建ての料亭は、街に増えた洋風建築特有の煌びやかさはなく傍目には質素に映るが、焼き杉の黒い高壁に囲まれ静かに佇む姿は、訪れる者に一種の緊張感を抱かせるに充分な風格があった。
この料理屋を訪ねる者は限られ、通された部屋は壁や襖でしっかりとよそとは区切られ、料理を運ぶ仲居達は、客の会話だけは聞こえないという不思議な耳を持ち、秘密を話すにはうってつけの場所だった。
二人の向かいには、卓を挟んでレオンと東郷屋伯爵が座っていた。
「お久しぶりです、東郷屋伯爵。先日の舞踏会では助けていただき、改めて感謝申し上げます」
あっ、と千代は肩越しに顔だけで振り返る。
「実は、この間お話しした清須川家の元女中頭についてなんですが、今日紗江子さんから手紙が届きまして、居場所がわかりました」
「本当か!」
湯船の縁に腕を掛けて凭れていた雪人が、驚きに身体を起こした。パシャンッと湯が跳ねる。千代は慌てて視線をそらす。
「な、名前は寺野ツルヱさんといって、今は東京に住んでいるようです。なので、私も東京に行こうと思っていたところなんです」
「それは都合が良い。俺ひとりで行くよりも、千代も一緒ならただの旅行に見えるしな」
茜は、女中を使ってまで一乗家の様子を把握しようとしていた。
今はもう、紗江子を使ってこちらの情報を得るのは不可能となったが、茜のことだ、別の方法でまだこちらの行動を監視している可能性もある。
彼女の人脈は未だに謎が多い。
もし、雪人ひとりが東京へ行けば、会社関係――特に今は融資で動いていると予測されてしまうが、二人であればただの観光旅行を装えると雪人は言っているのだろう。
千代は雪人と目を合わせ瞬きで頷いた、のも束の間。
「ひゃっ!?」
湯の中で忍び寄る雪人の手に気付かず、腹に何かが絡みついたと思った時には、千代は雪人に抱き寄せられていた。
大きく千代が動いたことで風呂の湯がざぶんと波立ち、身体が前後に揺すられ、否が応でも雪人と肌が擦れる。
「ゆ、ゆゆ雪人さん!? さっきは、こ、ここでは、ななな何もしないって……!?」
熱い湯に浸かっているというのに、不思議なことに背中に当たる雪人の胸板の熱がしっかりと伝わってくる。
口から心臓が出そうだ。
「ああ、声が響くからな」
「だだだだっ、だったら――!?」
雪人の腕から逃れようとする千代の耳に、色気を帯びた低い声が、鼓膜を撫でるように響く。
「なに……千代が少し声を我慢してくれたら問題ない」
「――っあ! ……ゃ……っ」
金魚鉢で魚が跳ね回るような水音に、千代の微かな声はかき消される。
唐突な快感に反射的に足を閉じたが、雪人の手は容赦なく太股の隙間に割り入ってくる。そして、身体の奥へと彼の指が射し込まれた。
「随分と簡単に飲み込まれたな」
「ぅんん――ッ」
後ろから耳朶を食まれながら囁かれれば、ゾクリと全身を快感が襲った。
パシャンと、また湯が暴れる。
一本だけだった指はすぐに数を増やし、中で暴れるように蠢いている。
「やぁ……っ、雪人、さんっ……だめ……ぇッ」
「駄目じゃないだろ。千代の中、湯より熱くてとろとろにふやけてて……気持ち良さそうだ」
好いところを掌で押さえ付けられ、指で浅いところを叩かれる。ビリビリとした電流のような刺激に、千代の足は痙攣が止まらない。風呂場の熱気なのか汗なのか、千代の首筋には、雫が何本も伝い落ち、しっとりと輝いている。
その首筋に、雪人が噛みつくように顔を埋めた。
「はッ……! ~~~~ッッ」
ヂュッと肌を強く吸われ、下腹部にゆるゆると与えられていた甘さに慣れていた千代の身体は、突然の強い刺激に背中を弓なりに反らせた。
大きな声が漏れそうにり、慌てて口を両手で強く塞ぐ。
「良い子だな、千代」
胸はやわやわとした刺激を送られ続け、下腹部はずっと疼いている。
「ふぁ……っぁ」
千代の腰は無意識に、背後にある雪人の固いものに擦り付けるように揺れているのだが、熱でふやけた頭では気づけない。
「――っ」
白い湯気にまぎれて、雪人が熱い息を吐く。
ほんのちょっとの悪戯ですませるつもりだった雪人だが、目の前で乞うように妖艶な動きで細腰を押し付けてくる千代に、目眩すら覚える強い情動を感じていた。
普段は清楚で、無垢が着物を着ているような千代が、喉の渇きを覚えるような艶姿を晒している。自分だけしか知らないという特別感と独占欲が、さらに雪人を興奮させていた。
必死に声を抑えている千代が、時折堪らずに漏らす艶声が、さらに雪人の鼓動を早める。
彼女だけ満足させて終わるつもりだったが、自分まで限界にきている。
『失敗したな』と雪人は、口の中で舌打ちをした。
風呂場の熱気と、身体の内側に溜まり続ける熱に、千代は虚ろな目で「雪人さん」と、うわごとのように繰り返し呟いている。
「千代」
雪人が中を可愛がっていた指をズルリ引き抜けば、千代は「あっ」と身を震わせ、くったりと雪人の胸に倒れ込んだ。
しっとりと濡れた前髪がひたいに張り付き、はぁはぁと色の籠もった息を上げ続ける千代に、ぐらりと目眩がした。どうやら抜いた時の刺激で果てたようだ。
『この官能的な光景に抗える奴がいたら、是非ともその忍耐方法を教えてほしい』と、雪人は歯を食いしばった。
『残念ながら、自分はそこまで聖人君子ではない』と、雪人は心の中で千代に謝りながら、彼女の身体を浴槽の縁に凭れかけさせた。
「ゆき、と、さん……?」
眉を垂らしてとろけた目で振り向いた千代を、雪人は後ろから抱きすくめ、指で口を塞いだ。
「ごめん、俺が我慢できない」
激しく湯が暴れる音の波間に、肌を打つ音と千代の猥声は沈んでいった。
【第七章:縁をたぐり寄せて】
1
大寒も過ぎた頃。雪雲が空を重たくした東京の日暮れ時。
千代と雪人は、とある料亭の一室で並んで座っていた。
純和風建築の門構えが壮麗な二階建ての料亭は、街に増えた洋風建築特有の煌びやかさはなく傍目には質素に映るが、焼き杉の黒い高壁に囲まれ静かに佇む姿は、訪れる者に一種の緊張感を抱かせるに充分な風格があった。
この料理屋を訪ねる者は限られ、通された部屋は壁や襖でしっかりとよそとは区切られ、料理を運ぶ仲居達は、客の会話だけは聞こえないという不思議な耳を持ち、秘密を話すにはうってつけの場所だった。
二人の向かいには、卓を挟んでレオンと東郷屋伯爵が座っていた。
「お久しぶりです、東郷屋伯爵。先日の舞踏会では助けていただき、改めて感謝申し上げます」


