その吐息に、猫も僕もとろけてる。〜高嶺の花の先輩には「人吸い」癖がありました〜

 「……スターアイランドくん、いい匂いがする」

 至近距離でそう囁かれたとき、僕の心臓は跳ね上がった。
 相手は、全校生徒が憧れるバスケ部のエース・本郷先輩。
 本郷先輩がなぜ僕の首筋に鼻を寄せているのか。その理由は、少し前の放課後に遡る。

 ――僕の名前は星島祐平(ほしじまゆうへい)、ここ羽山(はやま)高校に通う、高校二年生だ。


 僕たちには憧れの先輩がいる、本郷明人(ほんごうあきひと)先輩だ。
 彼は他の生徒とは違う不思議な力を感じる、それを感じる時はバスケ部の試合の時だ、綺麗なフォームと力強いダンクシュートは他校の生徒も先生もクギづけにしている……なんだけど。

 彼には欠点があった。
 それは他人に対して無干渉ということだ。
 こればかりは彼の性格の問題なので誰がとやかく言うものではないが、僕は本郷先輩と親しくなりたい、ただそう思ったのだ。
 
 唯一先輩に接近できる部活、首を長くして先輩のプレイを見る度、心の奥がときめいていた。
 あ、先輩、欠伸をしてる……。

 今日も眠そうだ、彼はいつも眠たそうな顔をしている。顔が整っていても欠伸もなんて凜々しいのだろうか。
 イケメン恐るべし……。

 背も高いし顔は整っているし女子にはモテモテだし、羨ましい点ばかりだ。
 それなのに僕はバスケ部といっても背は普通だし顔は……言いたくないけど女子よりだし、女子より男子からの告白が多いし……。


 まるで先輩とは反対だ。
 「次、二年生」
 「はい」


 試合が始まる、少しでも先輩の目に付くように動かないと。
 先輩に少しでもお近づきになりたい…………た、単純にバスケを上手くなりたいからで下心なんてない!!
 それに男同士だし、ときめいたところで、その先があるわけでもないのだから。


 「祐平!!」
 パスがまわってきた、キャッチしシュートに向かおうとするが目の前に来たのは長身の後藤だった。


 すかさず脇を通り抜けようとするも大きな掌に止められてしまった。
 ミスった、後ろに下がれば良かったと……。


 焦らなくていい、試合は始まったばかりだ。と集中する。
 試合は負けた。

 「はぁ……はぁ…はぁ……」
 「お疲れ」
 「ありがとう」


 同じクラスの福岡裕太だ、彼は補欠でタオルと水筒を持ってきてくれた。
 「さっきの試合おしかったよなぁ、後少しで後藤から逃げられたのに」
 「だよね、あそこは後ろにパスか引くべきだった」


 思わず先輩を見つめてしまった。タオルを首にかけているのに、体操着で顔を拭いていた。
 「なぁ、ずっと気になっていたんだけど祐平は本郷先輩のこと好きなの?」
 「は?」

 「違ったか、いつも見てる気がしたからさ」
 「……見てたのは普通に先輩すごいなって思っただけ」
 うわぁ、びっくりした。何を言い出す裕太!!

 「あ、なるほど、でも先輩身長もあるしドリブルもシュートも上手いからなんか僕たちとは次元が違うよね」
 「うん、でも努力もしてると思う、じゃないとあそこまではなれないよ」


 「ほぉーそれはいい褒め言葉だな」
 !? 急に頭上に現われた後藤先輩に驚き立ち上がる。

 「先輩、お疲れ様っす」

 「まぁ、座りたまえ後輩よ」
 後藤先輩が手をひらひらさせるので、ここは従っておこう。

 「あ、はい、ではお言葉に甘えて……」
 今は全体的に休憩の時間だ。


 「ここで一つ本郷に話を取り合ってもらいたいのなら猫を使え」
 「猫? ですか」


 「そうだ、あいつは大の猫好きだ」
 「は、初耳です」
 僕はそんな言葉に背筋を長くした。まさか猫が好きだとは思わなかったし、部活以外の先輩をあまり見ない気がしたからこれはとてもいい情報。

 「まぁあいつすぐ消えるからな、で、裏庭に住み着いているノワールという黒猫のところになにやら通っているみたいだ、お前も本郷を知るとしたらそこからなんじゃないか?」


 「そ、そうですね僕も裏庭に行ってみます」
 「おう! 頑張れ若者よ!」
 たいして歳は変わらないのに先輩からの助言で中庭に行くことにした。