「推し」の待ち受け画面をご本人に見られました

午前のシフトが終わり、午後担当に仕事を引き継いで、俺たちは自由行動に移った。



「せっかくだけど、私は友達と予定あるし、」

「俺も部活のシフトこれから」

「鷲宮先輩何かありますか?」

「何もない。」

「じゃあ決まりだねー!お二人で楽しんで〜」



まだ俺は何も言っていないのに、神原と要はそそくさとメイド喫茶を後にした。

鷲宮先輩と回れるのは嬉しいけど、万が一、柊さんに会った時の修羅場を乗り越えられる自信がない。

さっき言われたことを脳内再生しながら考えていると、頭上から鷲宮先輩の声が降ってきた。



「遥斗、行こ」

「……はい」

「今日も、推し活ってことでいいよな」

「はい、それはもちろん。写真いっぱい撮らせてください」

「…ちょっとくらい、俺にも撮らせろよな」

「…?」



先輩が俺の写真を持っていて何か利益があるのでしょうか?それこそ柊さんにバレたら何が起こるか…



「遥斗、行きたいところある?」

「先輩が行きたいところで…」

「…あっそ、じゃあ最初は…」



先輩がパンフレットを覗き込んだかと思ったら、目の前に先輩の顔がドアップできて鷲宮推しの本能で一歩後ろに引いてしまった。



「大丈夫か?」

「え?」

「なんか、いつもの遥斗じゃない」

「そう…ですか?俺はいつもの鷲宮先輩推しの成瀬遥斗です」

「まあ、うん…いつももっと写真撮ったり、はしゃいでたり…」

「…」



話すか…言っといた方がいいよな…鷲宮先輩も関係あるし

さっき柊さんに言われたことを鷲宮先輩に話すと、先輩は露骨に嫌な顔をした。



「気にしなくていい」

「っ、でも、気にしないでどうにかなりそうではないです…」

「あいつ、昔からああなんだ。美形だから、人を動かせると思ってる。」

「先輩は、その…柊さんのことは好きなんですか」

「好きじゃない。幼馴染だから、嫌いではないけど、恋愛感情は持ってない。安心しろ」

「?はい。安心します?」



柊さんと付き合ったら心配なだけで、先輩に彼女ができるのは心配していない。

でも、鷲宮先輩に彼女ができたら、もう一緒に出かけたりできないよな…推し活も付き合ってもらってるかんじだし…先輩は実際どうなんだろ。

「もーーほんとにありえなーい」

「もしかして、振られた?」

「振られてない!好きな人がいるって言われただけ!」

「それ、振られてんじゃん」



人が通らないはずの準備教室の廊下から、さっき聞いた声が聞こえる。



 好きな人?先輩に好きな人?



「麗だ。」

「……ここ生徒以外立ち入り禁止のはず」



こつ、こつ、と2人の靴が近づいてくる音がする。

柊さんの顔が教室の中に向けられるまであともう少し。



「わっ」



突然、体がぐいっと引っ張られるのを感じた。



「……っ、先輩……………?!」



掃除用具が入ったロッカーに、先輩と2人、今までにないくらい密着している。



え、ちょ、これはさすがにまずいのでは?!



「せんぱ」

「しっ」



先輩の大きな手で俺の口が塞がれた。



「でさーー、ん?誰かいた?」

「え、空き教室だよここ」

「わ、てかここけ生徒以外立ち入り禁止じゃん」

「やばーバレたら怒られるよ」



廊下から柊さんの声がする。

目の前には鷲宮先輩。

ゼロセンチの距離で先輩の柔軟剤の匂いがする。

花みたいな、少し甘い匂い。


とく、とく、とく、と規則正しい心臓の音も聞こえてくる。

先輩の音に、どく、どく、と俺の早まる鼓動が重なって耳元でうるさく聞こえてくる。

見つかるかもしれないという緊張と、先輩の1番近くにいるという喜びが俺の中で混ざり合って思考をぐちゃぐちゃにかき混ぜる。



 あ、これ、夢?推しに抱きしめられますって夢?相変わらずお美しいお顔……



リアルすぎる夢の中で思う存分目の前の鷲宮先輩を見つめていた。



「遥斗、見過ぎ…」

「…………すっ、すみません!」



突然の現実からの鷲宮先輩の声に、我に返って顔を逸らす。

状況を完全に理解した俺は耳から全身に熱が伝わっていくのがわかった。

先輩の腕が巻き付いている腰と、手で塞がれた口に余計に意識が向いて、温度が上がる。


 こ、これは…



「供給過多です……鷲宮先輩……………」