御伽草子はノンフィクション

 そういう障害が残る事をオト博士は心配したのです。
 もちろん、令和の時代なら、記憶の傷害があっても福祉が充実しているから暮らせます。しかし、平安後期の海辺の貧しい男が傷害を抱えて一人で生きるのは大変ですんで、もしもの時は太郎を安楽死させるという配慮だったのです。
 太郎は玉手箱の蓋に手を添えて微笑みました。
『開けたらあかんって言うとったな。どんないにええもんが入ってるんやろか。うひひ』
 あいつは、その蓋を開けるなという言葉を覚えていたのに、なぜか、小鼻を膨らませて興奮したような顔で浜辺で蓋を開けたのです。
 もちろん、ボンッと白い霧のようなものが太郎の顔に吹きかけられました。
 すると、太郎は声を漏らす間もなく老化して即死しました。
 太郎の行動を、カモ型のロボットの目線から監視していたわしは絶句しました。
『おまえ、覚えとるくせに何で箱を開けるんじゃ。おまえはアホなんかぁーー』
 あの男の行動は宇宙人のわし等にとっては謎でした。
 それても、あの若さで死んだ太郎が気の毒なので浦島神社を建ててやりました。
 わしにとって浦島の太郎の事件はそれぐらい衝撃的だったのです。
 しかし、後に、『夕鶴』という小説を読んだ時に、目から鱗がポロッと落ちました。
 機織の様子を見るなと美しい妻が言うのに、こっそりと見てしまう愚かな奴が主人公です。
 地球人は禁止されると、それをやりたくなるんですね。
 バラエティ番組で熱湯風呂の縁にまたがった太った裸の男が背後にいる仲間の男に向かって、念を押すように背中を押すなと叫ぶコントがあります。
『おい、押すなよ。いいか。絶対に押すなよーーー』
 禁止されると嬉しそうに、それをやってしまう。これが人のサガのようです。
 ええ歳したおっさんの警察官が同僚の女性のパンツを盗撮して逮捕されたりします。そういう衝動を、『浦島太郎症候群』と、わしは命名しました。
 アカンと分かっているからこそゾクゾクする。こんな調子やから、不倫する人間や痴漢は減りませんのやろな。
 わしは地球での滞在時間が長いせいなのか、ここでの暮らしに慣れていますし愛着もありますが、いつか、どこかの国のアホが核のボタンを押すのではないかと胸がドキドキします。押すなと言うと押してしまう。それが人間のサガなのです。
 人を殺したらアカンと分かっていても人間はやってしまうもんなんです。
 わし、言葉遣いはダサイけど、顔はどえらい男前ですねん。
 時代に合わせた男前にカスタマイズして日本の各地を点々としています。十年前はディーン・フジオカでしたけど、去年からは横浜流星にしとります。
 そやけど、言語は半世紀前のものなので、こちらも、そろそろアップデートせんとあきまへんな。
 おや。そろそろ、店終いの時間でんな。
 お嬢さん、そろそろ起きてくださいよ
 今、わしが何を持っているか気になりますか。
 これ、オタ芸する人達が持ってるライトと違いますよ。
 これは、某ハリウッド映画に出てきた便利な道具ですわ。あの映画の主人公のウイルスミスや、トミー・リー・ジョーンズの仕事道具と同じ効果のあるもんを作ってもらいましたんや。 
 ということで、わしとの会話と記憶の一部を消し去りますね。