教え子だった男子生徒は、こんなふうに冷静に分析している。
『例えば、彼氏の浮気に悩む女生徒がいたりすると寄り添って慰めていた。あいつ、みんなの理想の王子様みたいな振る舞いをしたがる。といっても、愚痴を聞くだけなんだよ。まぁ、女はそれでおおいに満足するんだから、ある意味、いい教師なのかもしれないな』
蓉子ちゃんとの関係を尋ねられた安斎はキッパリと告げた。
『やましいことは何もありませんよ。あの子が一人でウロウロするのが心配なので声をかけてあけるようにしていたんです。はい。映画も観に行きましたよ。ディズニー映画です。ポップコーンを食べながら無邪気に笑ってました。可愛い子です。あの子、一体、どこにいるんでしょうね。もう、二ヶ月も行方不明なんですね……』
しかし、安斎は、口で言うほど蓉子のことを心配しているようには見えなかった。
風間の目には、蓉子がいなくなったことで少しホッとしているように見えた。
☆
【早田ゆきなの証言】
殺してやりたい。そう思ったことがないと言えば嘘になります。だって、あの娘は、あたしと拓也の結婚式をぶち壊してやるって言ったのよ。あれは、あの子が消える数日前よ。
まだ 十二歳なのに、本当に恐ろしい娘よ。拓也と会った直後に消えたの。あの子の策略よ。拓也とあたしの結婚式を潰そうって魂胆なのよ。
ねぇ、刑事さん……。やっぱり、あの子が言ったように、拓也とあの子は付き合っていたのかしら? もし本当にそんな関係だったとしたら恐いわ。もう何も考えたくないわ。
最悪よ! あの子がいないんじゃ真実を調べようがないじゃないのよ。藪の中って小説かドラマを見たことかあります。あの子と拓也、どちらかが嘘をついているのよ。
☆
安斎の婚約者の早田ゆきなは二十九歳。両親は安斎が働く大手の個別学習塾の経営者だ。人娘のゆきなは塾の運営に関わっていない。
早田ゆきなは結婚に不安を抱いていた。婚約者から愛されていないのではないかと考えていたところに、今回の事件が起こったのだ。
『あたしと彼は、あの夜、ずっとホテルの部屋にいましたよ。それなのに、うちの親は、彼を疑うような事を言うんです。刑事さん達のせいだわ。どうしてくれるのよ。あの子の企みに乗らないで下さいよ!』
結婚の話も今回の妙な噂のせいで破談になるかもしれない。ゆきなは怯えていた。あの娘が、自分たちの結婚の邪魔をするために仕組んだに違いないと言った。
余計なお世話とは思いながらも風間はこう告げていた。
『しかし、失礼ながら、安斎さんの蓉子ちゃんに対する態度は、いささか度を越えていますね。高校教諭だった時も、教え子と深夜に会ったりしていますよ』
『彼は、誰にでも優しいのよ』
風間の私見だが、安斎は蓉子ちゃんを殺したりしないと感じていた。むしろ、殺す動機があるのは安斎の婚約者のゆきなだ。生意気な態度をとられて、カッと頭に血がのぼって絞め殺してもおかしくない。しかし、早田ゆきなはこう告げた。
『あの子、ひょっこりと出てきて、ある事ない事、ペラペラ話したらどうしよう。あの子ならやりかねないわ』
そんなふうに憤る横顔はどこか哀れだった。
☆
【蓉子の塾仲間。井筒健太くんの日記】
7月28日。晴れ。
蓉子ちゃんに会えくなって寂しい。失踪する前の日、本当のことをコッソリと打ち明けてくれた。ごめんね。好きな人と駆け落ちする。健太君とは結婚出来ない。そう言ったのさ。
親友の僕の愛の告白を断ってそいつと駆け落ちするくらいだから、よっぽどカッコイイ奴なんだろうな。これからどこに行くのって聞いたら蓉子ちゃんは言ったんだよ。誰も自分を知らない遠いところって。
でも、みんなには内緒よって言って僕のほっぺにキスしてくれた。蓉子ちゃんは学校に来なくなった。みんなは死んだとかって言ってるけど、本当は、秘密の恋人と、どっか遠くへ行ったのだ。蓉子ちゃん、僕に手紙を書いてくれないかなぁ。
やっぱり、まだ、僕は蓉子ちゃんのことが好きだなぁ。
☆
【服部麗子の別荘を管理している女の独白】
奥様に何と申し上げたら良いのやら。わたしがギックリ腰で寝込んでいる間にこんな事件になっちまったなんてね。それにしても図々しい泥棒だね。奥様の衣装部屋を荒らしたりして呆れちまうよ。おやまぁ、気付かなかったけど、衣装と靴以外にも手袋も消えている。
おかしいね。ロレックスやらブルガリの時計の引き出しは無事だ。ちゃんと鍵がかかっているから、泥棒も触れなかっただけなのかもしれないね。
犯人は、奥様の熱烈なファンか、あるいはコレクターってやつの仕業だね。
お嬢様女優として、当時は、男達の心を掻き乱したものさ。穢れなき気品溢れる上品な美貌の裏に秘められた情熱と気迫が認められて、あの年の映画賞を総なめにしたのさ。
『赤い靴の乙女』は傑作さ。自分を強姦した男を追い詰めて殺す演技の凄まじさと、殺すという行為さえも肯定したくなるような女の美しさを放つ様子は、もはや芸術の域に入っていたさ。
『例えば、彼氏の浮気に悩む女生徒がいたりすると寄り添って慰めていた。あいつ、みんなの理想の王子様みたいな振る舞いをしたがる。といっても、愚痴を聞くだけなんだよ。まぁ、女はそれでおおいに満足するんだから、ある意味、いい教師なのかもしれないな』
蓉子ちゃんとの関係を尋ねられた安斎はキッパリと告げた。
『やましいことは何もありませんよ。あの子が一人でウロウロするのが心配なので声をかけてあけるようにしていたんです。はい。映画も観に行きましたよ。ディズニー映画です。ポップコーンを食べながら無邪気に笑ってました。可愛い子です。あの子、一体、どこにいるんでしょうね。もう、二ヶ月も行方不明なんですね……』
しかし、安斎は、口で言うほど蓉子のことを心配しているようには見えなかった。
風間の目には、蓉子がいなくなったことで少しホッとしているように見えた。
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【早田ゆきなの証言】
殺してやりたい。そう思ったことがないと言えば嘘になります。だって、あの娘は、あたしと拓也の結婚式をぶち壊してやるって言ったのよ。あれは、あの子が消える数日前よ。
まだ 十二歳なのに、本当に恐ろしい娘よ。拓也と会った直後に消えたの。あの子の策略よ。拓也とあたしの結婚式を潰そうって魂胆なのよ。
ねぇ、刑事さん……。やっぱり、あの子が言ったように、拓也とあの子は付き合っていたのかしら? もし本当にそんな関係だったとしたら恐いわ。もう何も考えたくないわ。
最悪よ! あの子がいないんじゃ真実を調べようがないじゃないのよ。藪の中って小説かドラマを見たことかあります。あの子と拓也、どちらかが嘘をついているのよ。
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安斎の婚約者の早田ゆきなは二十九歳。両親は安斎が働く大手の個別学習塾の経営者だ。人娘のゆきなは塾の運営に関わっていない。
早田ゆきなは結婚に不安を抱いていた。婚約者から愛されていないのではないかと考えていたところに、今回の事件が起こったのだ。
『あたしと彼は、あの夜、ずっとホテルの部屋にいましたよ。それなのに、うちの親は、彼を疑うような事を言うんです。刑事さん達のせいだわ。どうしてくれるのよ。あの子の企みに乗らないで下さいよ!』
結婚の話も今回の妙な噂のせいで破談になるかもしれない。ゆきなは怯えていた。あの娘が、自分たちの結婚の邪魔をするために仕組んだに違いないと言った。
余計なお世話とは思いながらも風間はこう告げていた。
『しかし、失礼ながら、安斎さんの蓉子ちゃんに対する態度は、いささか度を越えていますね。高校教諭だった時も、教え子と深夜に会ったりしていますよ』
『彼は、誰にでも優しいのよ』
風間の私見だが、安斎は蓉子ちゃんを殺したりしないと感じていた。むしろ、殺す動機があるのは安斎の婚約者のゆきなだ。生意気な態度をとられて、カッと頭に血がのぼって絞め殺してもおかしくない。しかし、早田ゆきなはこう告げた。
『あの子、ひょっこりと出てきて、ある事ない事、ペラペラ話したらどうしよう。あの子ならやりかねないわ』
そんなふうに憤る横顔はどこか哀れだった。
☆
【蓉子の塾仲間。井筒健太くんの日記】
7月28日。晴れ。
蓉子ちゃんに会えくなって寂しい。失踪する前の日、本当のことをコッソリと打ち明けてくれた。ごめんね。好きな人と駆け落ちする。健太君とは結婚出来ない。そう言ったのさ。
親友の僕の愛の告白を断ってそいつと駆け落ちするくらいだから、よっぽどカッコイイ奴なんだろうな。これからどこに行くのって聞いたら蓉子ちゃんは言ったんだよ。誰も自分を知らない遠いところって。
でも、みんなには内緒よって言って僕のほっぺにキスしてくれた。蓉子ちゃんは学校に来なくなった。みんなは死んだとかって言ってるけど、本当は、秘密の恋人と、どっか遠くへ行ったのだ。蓉子ちゃん、僕に手紙を書いてくれないかなぁ。
やっぱり、まだ、僕は蓉子ちゃんのことが好きだなぁ。
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【服部麗子の別荘を管理している女の独白】
奥様に何と申し上げたら良いのやら。わたしがギックリ腰で寝込んでいる間にこんな事件になっちまったなんてね。それにしても図々しい泥棒だね。奥様の衣装部屋を荒らしたりして呆れちまうよ。おやまぁ、気付かなかったけど、衣装と靴以外にも手袋も消えている。
おかしいね。ロレックスやらブルガリの時計の引き出しは無事だ。ちゃんと鍵がかかっているから、泥棒も触れなかっただけなのかもしれないね。
犯人は、奥様の熱烈なファンか、あるいはコレクターってやつの仕業だね。
お嬢様女優として、当時は、男達の心を掻き乱したものさ。穢れなき気品溢れる上品な美貌の裏に秘められた情熱と気迫が認められて、あの年の映画賞を総なめにしたのさ。
『赤い靴の乙女』は傑作さ。自分を強姦した男を追い詰めて殺す演技の凄まじさと、殺すという行為さえも肯定したくなるような女の美しさを放つ様子は、もはや芸術の域に入っていたさ。



