運命の女

『あたし、若い男は嫌いよ。先生みたいなお年よりは大好きなの。昔からそうよ。だって、あたしを裏切ったりしないもの。竹井先生、どうか長生きしてね。身体を大切にしてね。いつまでも、あたしを見守っていてね』 

 私の死を知ったら君は哀しむだろう。だが、もう毒を含んでしまっている。刻々と薄れていく意識の中に浮かぶのは、最後に見せた君の天使の様な微笑みだ。

『嵐は去ったわ』

 爽やかな朝の光を背にして立っていた。満ち足りた表情を浮かべていた。何かいい事があったのだと気付いたのだよ。

 果たして、君は、あの豪雨の夜、ずっと海辺の別荘にいたのだろうか? 

 あの朝、玄関に置かれていた赤い靴の裏側には粘っこい泥がこびりついていた。赤黒い汚れが君子のソックスに跳ねていたね。

 週刊紙によると、相沢という男は下衆で最悪な奴だったようである。

 そうだよ。よくやったね。脅威は消すに限る。どうやら、君と私は似た者同士のようだね。

 暗闇にいるのに眩しい。時間のシャワーを浴びているかのように毒がゆったりと身体隅々へと染み渡っていく。自分の人生の輪郭が融けて闇の中へと包まれていくような感覚に陥っている。

 最後に告白する。

 君を捨てた安斎という男を殺したのは私なのだ。彼は、雑誌の表紙を飾る君を見て顔色を変え、行方不明になった女の子に似ていると言い出した。だから、私は、検診で癌を発見していたが放置したのだよ。

 あの男は偽善者だ。恋を装い、幼かった君の身体を弄んだ罰は受けるべきなのだ。

 君は、賢くて強くて才能に溢れている。麗子様の罪を無かった事にしてくれてありがとう。

 さようなら。もう二度は会えなくなるけれど、これからも、君が、華麗な人生を演じ続けてくれると信じている。

           
                    

        
        
        おわり