王子の俺よりも、さらにイケメンな転校生がやってきました

七瀬と出会ってから何ヶ月経ったのだろうか。
現在、十二月。十二月と言えばクリスマスだ。俺は去年のクリスマスも一昨年のクリスマスもクラスの女子や男子と遊びに行っていた。
しかし、今年はどうなるのかわからない。
なぜなら七瀬がいるから。
七瀬のせいで色々なことに巻き込まれるし、交換日記も始めることもあった。
(ついにクリスマス…)
俺の毎年の目標はクリスマスまでに彼女を作ること、だ。しかし、こんなに七瀬に懐かれているような状況じゃ、彼女を作ることもできないだろう。
(ま、仕方ないか……)
数ヶ月前まではものすごく嫌だった。七瀬に全てを制限されている気がして。
(俺、どうしたんだろ……)
自分の心情の変化に驚くことが多くなった。そんなことを考えつつも教室に入ると、全員の視線が一斉に俺に向いた。
「な…何…?」
俺が驚いていると、クラスの男子の一人である一村が近づいてきた。
「お前、これ知らねーのかよ?!」
そう言って見せてきたのは一枚のポスター。そこに書かれていたのは、
『必見!クリスマスのイケメン写真コンテスト!注目は2年生の一条累くんと七瀬怜くん!』
だった。だいぶ適当に俺のことが書いてあった。そして、一村は頭を下げ始めた。
「生徒会に頼まれてんだけどさ…。これに出てくれない?生徒会長が懇願してきてさ…」
そう言われて俺は、返答に困ってしまう。しかし、俺が出るとなると、七瀬も出るのだろう。
(これって俺のかっこよさを見せられるチャンスなんじゃ……)
俺がそんなことを思って少しにやけていると、七瀬が後ろから入ってきた。
「おはー。ってそれ、累も出るの?」
そう聞かれて俺は、
「あぁ!もちろんだよ!!!」
と大きな声で言ってしまった。この大声によって数人しか集まっていなかった視線を倍にすることになる。
「んじゃ俺も」
七瀬はサラッとそういった。
(もともと七瀬がこう言うの出るの好きそうだなぁ…負けてられない…)
俺が心の中で熱意を燃やしていると、どこから現れたのか、生徒会長が立っていた。
「一条累も七瀬怜も参加っ…と」
会長が名簿にチェックを入れていたので、俺はその名簿をチラリと見る。そこには学校でそこそこ顔がいい人の名前がずらりと書いてあった。
「会長?!こんなに参加する予定なんですか?!」
俺がそう聞くと、会長は当たり前だと言うような表情を浮かべた。
「このイベントは私自身が楽しみにしていたものの一つでもあるからな!」
そう言って会長は他のクラスに歩いて行った。会長のそばにいた副会長も会釈して会長の後をついて行った。
(もしかしてこのイベント…会長の私情も入ってるんじゃ……)
よくない想像をしてしまった。今さら辞退というのも無理な話だろう。
「もしかして累、 辞退しようとか思ってないよね?」
俺はギクッとした。心の中で思っていたことを見事に当てられたからだ。七瀬の読みにはときどき驚かされる。
「ま…まさかそんなことするわけねぇだろ……」
俺はぎくしゃくと答える。すると、七瀬はじとーっとこちらを見てくる。俺は視線を教室の隅に移す。
すると、七瀬は「ま、いいか」と言って、俺のほうを見た。
「コンテストの写真を今日から一週間以内に撮らないといけないでしょ?放課後に撮ろうよ」
七瀬は俺にそう言った。七瀬は俺と二人きりで撮るつもりなのだろう。
「えでも……」
「お前らも撮んの?俺も行く!」
 そう言ってきたのは俺のクラスからのもう一人の代表者、鈴木雄太。
「えーっと……」
七瀬が返事に困っているすきに俺は、
「いいよいいよ!なんならほかのクラスの人たちも誘っていこう!」
俺が早口でそう言うと、鈴木は大きくうなずいた。そして、
「じゃあ、誘ってくる!」
そう言って走って行った。残された七瀬と俺の間には気まずい空気が流れる。
「…お前なぁ……」
七瀬が俺の肩をガシッと掴む。地味に力が強い。俺の額に汗が滲んでくる。
「なんでしょうか……?」
俺が恐る恐る振り向くと、七瀬の笑顔があった。笑顔だが、それはとても冷たく恐ろしい。
「あはは……」
俺が苦笑いで乗り切ろうとすると、七瀬はニヤッと笑って、
「今日撮影さっさと終わらせてファミレス行くよ」
と言われた。もちろん俺は断ることができなかった。その時の七瀬の顔が少し体調が悪そうに見えたのは気のせいだろうか。

「鈴木ぃ〜〜!」
俺が呼ぶと、鈴木雄太はにっと笑った。
「くるの遅くね?」
俺がそう聞くと、鈴木はニヤニヤと笑い始めた。
「俺が遅くなったのはな……彼女に挨拶してたからだ…!」
ドヤ顔でそういう鈴木に呆れたので、俺は「あーすごいねー」と素通りする。こんな奴の相手をするのは面倒臭いからだ。俺だって彼女一人は欲しいのに。
「お前顔がいいんだから彼女できるだろ?!」
突然ヒステリックのように鈴木が叫び出したので、俺はぎくっとする。すると、
「もういいから早く撮影しよ」
そう言って七瀬が来たのだ。俺はまたドキッとする。
「あーはい…」
俺が静かに返事をすると、突然、教室の扉が大きな音を立てて開いた。そこにはガラの悪そうな先輩が立っていた。
「おぉい七瀬と一条…ちょっと顔貸せや」
そう言われて、教室の外に出ろと言われる。関東ヤンキーの感じしかない。
「え…」
俺が固まっていると、七瀬がずいっと前に出てきた。
「わかりました」
はっきりとそう言ったその声は、教室に響く。俺たちは教室の外に出る。
「お前らなぁ…目立つのやめろや…」
三人くらいの先輩に囲まれて唐突にそう言われた。先輩たちの顔はマジだ。口答えを一瞬でもしたら殺されそうな空気が漂っている。
「目立ちたくて目立ってるわけじゃありません」
七瀬がはっきりとそう言った。
(どうしてこういう時に限って堂々としてるんだよ……俺、死ぬかもじゃん!!)
手に汗がベトッと滲んでくる。すると、先輩たちの顔が少し引き攣った。
「あぁ?」
そう言って七瀬の胸ぐらを掴んで持ち上げる。先輩は七瀬より身長が高い。
(あぁ………)
俺が終わったと思ったその時、
「ぎゃっ」
そんな声をあげて、七瀬の胸ぐらを掴んでいた先輩が吹っ飛んだ。俺が驚いて七瀬を見ると、手を払っている。
「写真コンテスト、先輩たちが勝ったら、もう目立たないんで」
七瀬の目はいつもの100倍くらい冷たかった。俺は七瀬に手を引かれて、教室に入った。すると、
「一条、七瀬、大丈夫だった?!」
鈴木雄太が駆け寄ってきた。俺は顔が引き攣ったままだろう。すると、七瀬がなんとも言えない爽やかな笑みを浮かべて、
「大丈夫。早く写真撮っちゃおう」
と言った。俺もその一言に対して頷く。そして、俺たちは写真撮影を開始した。

「やっと終わった…」
色々なポーズで色々な角度からとにかく写真を撮った。鈴木に「ちょっと色気追加して」とかいう無理な注文を受けつつもかっこいい写真を撮った。
しかし、鈴木がなかなか止まらなくて結局写真撮影が終わったのは、6時近かった。今からファミレスに行くのだろうか。
「じゃーなー!」
鈴木は一人満足して颯爽と帰っていった。残された俺たちの間には少し気まずい空気が流れる。
「この後どうすん…」
の?と聞こうとした瞬間、七瀬の顔が正面にあった。ものすごい近くに。おふざけとかで近づいているのではなく、本気で体調が悪そうだ。
「七瀬っ」
俺が声をかけると、七瀬は「う…」と唸っただけだった。
額に触れると、もの凄い熱さだった。そのせいか、呼吸も少し上がっている。
(看病イベント発生…?)
「七瀬、家は?送るから教えろよ」
俺がそう聴くと、七瀬は顔を上げて、
「案内する…」
とだけ言った。俺は七瀬と一緒に家に向かった。

「でっけぇ………」
思わず声が漏れ出た。それほど大きい家だった。七瀬はお金持ちの息子なのか。
「鍵を開けて…」
七瀬に鍵を渡された。開けると、玄関も広い。
「お邪魔します」
俺はそう言って家に上がった。七瀬はふらふらと歩きながら二階に上がっていったので、俺も着いていった。
(誰もいないのか…?)
俺がきょろきょろとあたりを見渡していると、七瀬がそれに気づいた。
「親は仕事でどっちもいない。夜までは帰ってこないだろうから」
と言った。そして、2階の廊下の端にある部屋に案内された。
「ここ、俺の部屋」
少し席をしながらそう言った七瀬を見る。さっきより体調が悪くなっていそうだ。
「もう着替えして寝たら…?必要なものは俺が買ってくるから」
そう言うと、七瀬はこくんと頷いた。そして、俺に何かを渡してきた。
「それで買ってきてほしい…」
俺の手にあったのは一万円札だ。俺は目が飛び出そうになった。一万円札なんてそんな友達に渡すものじゃないだろうと。
「じ、じゃあ、行ってくる」
動揺を隠しながら七瀬の部屋を出る。すると、
「ダセェ……」
という小さな一言が聞こえた気がした。

「七瀬…」
買い物を済ませて七瀬の部屋に戻ると、クラシックが流れていて、七瀬はぐったりしていた。額にもう一度触れると、さっきより熱くなっている気がする。そして、俺はいくつか質問をすることにした。今後の俺の行動に関わることだ。
「親御さんには電話したのか?」
俺がそう聞くと、七瀬は頷いた。
「台所使っていい?簡単な料理作って渡すからそしたら帰るわ」
俺がそう言うと、七瀬はこちらをじっと見てきた。すると、布団から上半身を抜け出して、俺に抱きついてきたのだ。
「っ!!!」
俺が声を出せなくなっていると、七瀬はぼそぼそと何かを話し始めた。
「料理楽しみにしてるけど、帰ってほしくない…」
そんなことを言っていた。しかし、俺は家に帰らないといけない。
「ごめん」
と言って七瀬を布団に戻した。
俺は一回のキッチンに行く。キッチンは広く、整理整頓がきちんとされていた。
「よし!」
俺は腕を捲っておかゆを作り始める。スマホでいくつか調べておいたのだ。
(これならきっと、七瀬も喜んでくれる…!)
そう思って作っていっている途中、突然玄関から人影が現れた。見たことない女性だった。その人はキッチンの人影に気づいたのか、入ってきた。
「きゃっ……!誰っ…?!」
どうやらその人は俺が悪者か何かだと勘違いしているらしい。俺は間違いを教えてあげようと、「お邪魔しています。七瀬さんの友達の一条です」と挨拶しようとした瞬間、手首を掴まれた。
「いったっ」
想像以上の力に驚くのと同時に腕に食い込む手が凄く痛い。
「怜!この人誰なの?!」
その女性は七瀬に向かってそう叫んだ。すると、寝ていた七瀬はむくりと起き上がった。
「それ、友達の一条累だよ」
そう七瀬が言った瞬間、女性は手をぱっと離した。そして、俺に向かって頭を下げ始めた。
「本当にごめんなさい!」
俺は、いや大丈夫ですと言った。すると、七瀬が
「累、その人俺のねーちゃん」
そう言われた瞬間、俺の脳内では驚きが爆発していた。
「?!?!?!」
俺が驚いている顔をしていたのか、その人は笑顔をこぼした。
「私、怜の姉の七瀬玲那です。怜と似ている漢字が名前に使われています♡」
とニッコニコの笑顔でそう言ったのだった。俺は改めてその女性を見る。その人は確かに七瀬に似ている部分があった。
(本当に血が繋がってるんだな…)
俺はそんなことを考えていたが、大事なことを思い出す。
「あ!鍋!」
俺がそう言って下に降りようとすると、七瀬のお姉さんがそれを止めた。
「火はさっき消したよ!」
(この人いつ消したんだ…)
俺がまたまた驚いている顔をしていると、今度は七瀬が
「ねーちゃん、なんで累をとっつかまえてきたわけ?」
それは俺も聞きたいと心の中で思う。
「怜って今までちょっと悪めのやつとつるんでて、そいつが家に入ってくること何回もあったじゃん?だから今回もそういうタイプかと思って捕まえちゃったの」
素直にそう言ったお姉さんの言葉に疑問が現れる。
「悪めのやつってどういうことですか?」
俺が聞くと、お姉さんは答えようと口を開いた。しかし、七瀬がそれを止めたのだ。
「累は知らなくていい。…おかゆが早く食べたいな」
七瀬はそう言って話を変えた。きっと知られたくない何かがあるらしい。
「わかった。作ったら俺、すぐ帰るわ」
なぜか七瀬との間に壁ができた感じがして、俺はさっさと帰ることを決意したのだった。

「一条!今日投票日だぜ!!!」
鈴木雄太がそう言ってきた。そういえば今日は写真コンテストの投票日だ。
体育館に写真が貼られていて、朝の早い時間帯から学校の生徒が観覧し、一位から三位までをかき、投票する。投票結果は今日中に報告するらしい。
(今日のうちに結果発表って無理があるだろ……)
しかし、投票を開票する予定の会長は乗り気らしい。
「鈴木は何位かな?」
「わかんね!参加者何人いるんだっけ?」
鈴木にそう聞かれて俺は参加者名簿の人数を思いだす。あそこには確か……
「50人くらいじゃね?」
俺がそういうと、鈴木はひどい顔をし始めた。
「絶対半分以上に入ってない」
目をうるうるし始める鈴木を撫でる。きっと大丈夫と言うと、鈴木は笑顔で教室に走っていった。
「累!」
後ろを見ると、七瀬が。
「七瀬」
俺の目標は七瀬に勝つこと。七瀬に勝って、今度こそ俺がイケメンだと証明したい。
「何踏ん張ってんの」
七瀬に笑われた。勝つと心の中で宣言した時に、表情が踏ん張っていたらしい。
「別にいいだろ」
そう言うと、七瀬は人気が全くない廊下の端に俺を連れてきた。
「何不貞腐れてんだよ…」
七瀬が俺の肩に顎を乗っけて頭に手を乗せた。
(っ……!!!)
顔と体中が熱くなる。炎をつけられたみたいな感覚だ。
「充電完了。ちゃんと教室こいよ」
七瀬はそう言って去っていった。残された俺は一人で顔を赤くしていた。

「うおおおおついに発表だ!」
さっきから鈴木がハイテンションすぎる。朝もハイテンションだったのに。
発表は放送で行われる手筈になっている。だからそろそろ………
『えー只今より、今回のイケメン写真コンテストの結果発表を行います』
心臓がどくどくと跳ねている。目標は七瀬より上の順位を取ること。
『五位から発表します。五位、一年二組……四位、一年四組……、三位、三年一組……、二位、三年二組……』
なんと二位と三位は俺と七瀬を襲撃してきた先輩だったのだ。もし、これで俺たちが一位じゃなかったら、俺たちは残りの学校生活をひっそり過ごさなければならない。
(そんなの絶対嫌に決まってんだろ…!頼む…!)
俺が祈り始めたとき、会長のハイテンションな声が聞こえる。
『なんと一位は驚きの結果に!!!一位は……』
どくんどくんとさらに強く心臓が跳ねる。緊張で手に汗が滲む。こんな適当なコンテストでこれほど緊張するとは。
『二年生の一条累くんと七瀬怜くんです!!この二人が学校一かっこいいことになりました!結果はまさかの同点!!!』
俺は一瞬フリーズした。七瀬と同点…?だけど一位…?!
「うおおおぉぉ!おめでとう!!!!」
「よっしゃぁぁぁぁ!」
みんなが自分ごとのように喜んでくれている。七瀬は俺の方を見て、
「おめでとう」
と言ってくれた。俺も七瀬に
「おめでとう」
と返した。すると、会長が、
『参加者全員の人数は掲示板に貼りまーす。ぜひ見てね!』
そう言った。それと同時に放送はブチっと途切れた。
「累、俺ら学校一イケメンだって」
「おう」
本当は七瀬に勝ちたかったが、二人で一位でも悪い気はしない。むしろいい気分だ。
俺はこの時、七瀬と同じ学校でよかったと感じたのだった。