王子の俺よりも、さらにイケメンな転校生がやってきました

十一月は最悪だ。
文化祭が終わったのに、テストがある。
「はーい。テスト二週間前ということで、範囲表を配るぞー」
先生が各列に範囲表を配る。俺は渡された範囲表を見て、心の中で絶叫する。
(おい…。範囲広すぎだろ?!)
教科書を取り出してパラパラと見る。やっぱり範囲は以上に広い。
ホームルームが終わり、俺は机にふせる。
「う〜」
俺が唸っていると、七瀬が肩を叩いてきた。
「どうしたの?」
七瀬がニコニコの笑顔でそう聞いてきた。俺は七瀬をチラリと見る。
(確かこいつって……)
「お前、めちゃめちゃ頭いいよな?」
七瀬にそう聞くと、七瀬は首を傾げる。誰のことだろうと悩んでいるようだった。
「七瀬のことだよ」
俺がそう言うと、七瀬は手をブンブンと振った。
「悪いよ!」
そう叫んできたので、俺は七瀬に次の質問をする。
「じゃあ、前に学校のテストの最高順位教えろ」
俺が半睨みでそう言うと、七瀬は指をちょんちょんと触りながらこう答えた。
「…い、一位」
俺は思わず掴みかかる。
「七瀬ええええ?!」
「ご、ごめんなさーい!!」
七瀬はそう言うが、俺は掴んだまま離さない。
(まて…?よく考えたら、こいつに勉強教わればいいんじゃね…?!)
俺はそう思った。そして、七瀬を掴んでいる手を離す。
「俺に勉強を教えてくれ!」
頭を下げて俺がそう言うと、七瀬は困っているようだった。
「頼む!」
俺が必死に懇願すると、七瀬は耳元に顔を近づけてそっとこう言った。
「…あのファミレスで日記の交換できるなら、いいよ」
七瀬の優しい吐息が耳にかかる。俺の耳はほんのりと熱を帯びる。熱い。
七瀬を見ると、ニコニコと笑っていた。俺はそっぽを向く。七瀬と今目があったらまずい。そう思っていた俺に、七瀬はぐいぐいと顔を近づけてきた。
「っは?!」
俺は思わず大きな声が出てしまう。すると、七瀬が
「なんか顔赤くない?」
と少し笑いながら言ってきた。俺は七瀬を睨みつける。
(こいつ…俺で遊んでやがる……)
俺はとりあえず適当にあしらう。
「赤くねーよ」
俺がそう言うと、七瀬はつまらないとでも言いたげな顔を見せてくる。すると、目の前に人影が現れた。
「王子、一年呼んでる」
俺はそう言われて、急いで廊下へ向かう。来てくれた子を待たせるのは良くない。
廊下に出ると、そこにはツインテールの可愛い子が立っていた。その子は俺にギュッと抱きついてきた。俺にとっては知らない子だったので、少し焦る。
「えっと…」
俺がそういうと、彼女は当たりをちらちらと見回して、ホッと息を吐いた。
「どうしたの?」
俺がそう聞くと、彼女の肩はビクッと震えた。彼女は怯えの目で俺を見ている。
「あ…」
やがて足もカタカタと震え出し、目には涙が光ってきた。俺はその子の腕を掴んで図書室まで全力で走った。

「すみませんでした…」
図書室に着くと、まず初めにそう言われた。俺は心配の目で彼女を見る。すると、彼女は俺の目に真剣な表情で見つめ返してきた。
「私、元カレに追われてるんです…」
すると、彼女は自己紹介と共に、何があったかを話してくれた。

名前は柳沢翼。
元カレは風堂怜。(七瀬と同じ名前)
一ヶ月前に別れたはずなのに、毎日つけられているらしい。そして、朝登校してきて、口論になってしまい、「新しい彼氏いるから!」と宣言してしまったのだとか。
そこで、彼氏のフリを一週間だけしてほしいと。

「なんで一週間なの?」
俺がそう聞くと、柳沢さんは、ふぅっと息を吐いた。
「怜が海外に引っ越すんです。それがちょうど一週間後。それまで付き合っているフリをできれば、逃げられると思ったんです」
彼女の言っていることはもっともだ。それに、俺は彼女を助けてあげたいと思った。
「じゃあ、よろしくお願いします。休み時間ごとに教室に行くから、俺が来るまでは、風堂から逃げててほしい」
俺がそう言うと、柳沢さんはニッとはにかんだ。
その後、柳沢さんに「翼でお願いします」と言われたので、翼ちゃんと呼ぶことにした。
俺は翼ちゃんと一緒に教室に戻る。するとさっそく、
「翼!」
廊下の向こうから走ってくる人影。
「ふ…うどうさん…」
翼ちゃんの顔がどんどん青くなる。
風堂は俺そっちのけで話を進める。
「翼、今日は空いてるよね…?一緒にファミレス行こうよ〜!」
その誘いに対して、翼ちゃんは、首を横に振っている。しかし、風堂は誘うのをやめない。俺はその状況に少し腹が立った。風堂の手を掴んで、翼ちゃんから引き剥がす。
「翼ちゃんが嫌がってるでしょ」
俺がそう言うと、風堂はあからさまに嫌悪感を出してきた。
「誰だてめぇ?」
風堂がずいっと近づいてくる。俺と翼ちゃんは視線を合わせる。ここからは打ち合わせ通りの流れだ。
「累先輩だよ!通称王子!私が少し前に告白したら付き合ってくれた…!だから、彼氏だよっ…!」
翼ちゃんは必死にそのことを伝えている。
俺は王子。
こんなところで屈するような人ではないはず。
「翼の彼氏っ……?!」
風堂は明らかに動揺しているようだった。それも仕方ないだろう。ずっと好きだった翼ちゃんに、新しい彼氏ができているのだから。
「じゃあ、さよなら!」
翼ちゃんは俺の手を握って、駆け出す。そして、そのまま俺の教室に行った。
「先輩…。本当にありがとうございました。これから一週間、よろしくお願いします」
そう言って翼ちゃんは教室を去っていった。

その頃、七瀬は…
「累の何なの?」
「なんて答えれば満足ですか?」
柳沢翼と話していた。柳沢翼、この子はさっき恐ろしい笑みを浮かべていた。怖すぎる笑みを。
「…先輩の仮カノです。…やがて、カップルとなる予定です♩」
俺はそれを聞いて、驚いた。違う、累、騙されている。
「でも、君、元カレいたよね?」
俺がそう聞くと、柳沢翼はニコッと笑った。
「あの人は私の駒となって動いてもらう」
そう言って踵を返していった。
(累を守らないと…)
俺はそう、決意した。

「累…」
七瀬に声をかけられた。いつもの七瀬だけど少し違う感じがする。
「どうした?」
俺がそう聞くと、七瀬は席について、
「柳沢翼って子と付き合っているの?」
七瀬にそう聞かれた。
(うわ…。もう噂回ってるのかよ……)
俺が微妙な顔をしていると、七瀬は顔を近づけてもう一度聞いてきた。
「柳沢翼と付き合ってるの?」
「…あの子は元カレに付き纏われていたらしくて…。それで一週間だけ、カレカノになることを約束した。だから一週間限りの関係だよ」
俺がそう言うと、七瀬はホッとした表情を浮かべて、
「良かった」
と一言呟いた。

学校が終わり、俺は七瀬とファミレスで勉強する…つもりだった。
「じゃあ、累、いつものとこでいいよね?」
そう聞かれて、俺は頷く。テキストをいくつか抱えて、ファミレスに向かう。すると、校門から走ってくる翼ちゃんが見えた。
「先輩…。また風堂に追われてっ…」
翼ちゃんは必死に逃げてきて疲れているのか、額には汗が滲んでいた。
「七瀬…」
俺が七瀬に声をかけると、七瀬は、
「先行ってる」
と言って、歩き出した。俺は翼ちゃんに向き合う。
「ごめん。今日は勉強しないといけないから…」
俺がそう言うと、翼ちゃんは涙を流し始めた。
「じゃあ、風堂に追われてろって先輩は言いたいんですか…?!ひどいです!!」
わーっと翼ちゃんが泣き出した。俺は焦る。
(これじゃ俺が泣かせたみたいじゃん……。いや、そうか…)
俺は翼ちゃんの頭をぽんぽんと撫でる。
「そういう意味ではないよ。ほら、家まで送るから」
そう言って翼ちゃんを説得して、家まで送った。
ファミレスに着く頃には、七瀬と別れて一時間くらい立っていた。
(七瀬はっ……)
俺は店内を見渡す。すると、いつもの席に七瀬が座って勉強していた。メガネをかけている。
「七瀬…遅くなった……」
俺がそういうと、七瀬は、
「ん」
と返事をしただけだった。俺は、七瀬の正面の席に座る。すると、俺たちの関係を表すかのように雨がポツポツと降り始めた。
「…累さ」
沈黙の中、勉強していると、七瀬が声をかけてきた。
「あの子、一週間経ったら絶対別れろよ?一週間経たなくてもいいけど」
突然そんなことを言われて、俺は驚く。やっとのことで、「なんで?」と聞き返す。
「あの子、絶対性格悪い。お前のこと狙ってるだけだよ」
七瀬にしては珍しく厳しい口調でそう言ってきた。俺の中では怒りが湧き上がる。
「だいたい一週間だけ付き合ってくださいってなんだよ…。やっぱ狙ってるだろ……」
「七瀬は、あの子と話したことあんのかよ?!」
俺は机を叩いて立ち上がっていた。
七瀬は驚きで、外そうとしていたメガネを落としかけている。俺の手からは握られていたシャーペンが落ちる。
カツーンと音がした。
俺たちは何も話さない。雨の音が響く空間が出来上がっている。
俺は我にかえり、七瀬をキッと睨みつける。
「代金はこれだから」
俺はお金を机のたたきつけて、七瀬を置いて帰ることにした。俺が帰ろうとしたとき、七瀬は俺を見て、
「いつか、自分は間違っていたんだと気づくよ」
と言った。俺はさらにその一言にカッとなった。
(こいつともう話すもんか…!)
俺は雨の中、傘もささずに帰った。

次の日、学校に着いて教室に入ると、すでに七瀬はいた。七瀬は俺に気づき、何かを言おうとしていたが、俺は無視して立ち去った。
すると、廊下に翼ちゃんが来た。
「先輩!…風堂、明日で留学です…!」
翼ちゃんの瞳は心なしか輝いていた。俺は翼ちゃんが安心して学校生活を送れるのなら、それは喜ばしいことだと思っている。
「てか、翼ちゃん、テストあるよね?」
俺が恐る恐るそう聞くと、翼ちゃんはこくんと頷いた。
「ありますね…」
翼ちゃんの表情は一気に曇る。
(テストの話題なんて出さなきゃよかったー)
俺は心の中で自分の言葉をぶん殴る。
「っじゃあ、勉強会しませんか…?」
「いいけど…」
俺がそういうと、翼ちゃんはニコッと笑う。
(七瀬と勉強するよりも楽しいかもな)
俺はそんなことを考えてしまう。そんな自分に嫌気がさしてしまう。
「じゃあ、学校の近くにあるファミレスで待ち合わせしましょう?」
すると、「突然七瀬が勢い良く立ち上がる。
今の会話が聞こえていたのかもしれない。

「先輩!待ちましたか?」
翼ちゃんがあざとい声で言ってくる。
「待ってない。あと、今日でこの関係はおわりね」
俺は昼間の七瀬の行動からの苛立ちか、自然と冷たくなってしまう。
「えーいやですよ。本当に付き合いません?」
そう言って、ファミレスを出て、裏のやばそうなところへ連れていかれる。
(ここ、明らかにやばいところだろ…)
俺がそう思って、帰ろうとしたとき、翼ちゃんが足を止める。そこはホテルの前。
「さ、ここですよ♪」
いつもの口調でそう言ってくる翼ちゃんが怖い。すると、
「累!!」
七瀬の声が聞こえた。俺は急いで七瀬のもとへ駆け寄る。
「柳沢翼、もうあきらめろ。元カレとの関係も自分自身でどうにかしろ…」
七瀬の声は恐ろしく冷たかった。そして、俺は七瀬に手を引かれて裏の通りを抜ける。そしてすぐそこにある公園に入る。
あたりは少し薄暗い。
公園に入ると、七瀬はブランコに腰かけた。俺も隣に座る。
「…さっきの危なかったな」
二人の間の沈黙を破ったのは七瀬だった。七瀬にそう言われて俺はうなずく。
「助けてくれてありがとう」
俺がそういうと七瀬はくすっと笑って、
「ん」
といった。そして、俺はまだ七瀬に伝えないといけないことが残っている。
「七瀬にひどいこと言って悪かった。全部七瀬が正しかった。本当にごめん」
俺がそういうと、七瀬はにっと笑った。
「俺も累のこと考えずに自分の考えを押し付けてた。累からしたら仲のいい女の子なのに、突然その子の悪口言われたらいやだよね、ごめん」
七瀬にそう言われて俺はうなずく。
「じゃあ、仲直りってことでいいよな?」
俺がそう聞くと、七瀬は力強くうなずいた。
「じゃあ、明日からファミレス行こう」
そういわれて、俺は、「行こう」と返事をする。
すっきりとした俺の気持ちを表すかのように、薄暗い空には一番星が輝いている。