十一月は最悪だ。
文化祭が終わったのに、テストがある。
「はーい。テスト二週間前ということで、範囲表を配るぞー」
先生が各列に範囲表を配る。俺は渡された範囲表を見て、心の中で絶叫する。
(おい…。範囲広すぎだろ?!)
教科書を取り出してパラパラと見る。やっぱり範囲は以上に広い。
ホームルームが終わり、俺は机にふせる。
「う〜」
俺が唸っていると、七瀬が肩を叩いてきた。
「どうしたの?」
七瀬がニコニコの笑顔でそう聞いてきた。俺は七瀬をチラリと見る。
(確かこいつって……)
「お前、めちゃめちゃ頭いいよな?」
七瀬にそう聞くと、七瀬は首を傾げる。誰のことだろうと悩んでいるようだった。
「七瀬のことだよ」
俺がそう言うと、七瀬は手をブンブンと振った。
「悪いよ!」
そう叫んできたので、俺は七瀬に次の質問をする。
「じゃあ、前に学校のテストの最高順位教えろ」
俺が半睨みでそう言うと、七瀬は指をちょんちょんと触りながらこう答えた。
「…い、一位」
俺は思わず掴みかかる。
「七瀬ええええ?!」
「ご、ごめんなさーい!!」
七瀬はそう言うが、俺は掴んだまま離さない。
(まて…?よく考えたら、こいつに勉強教わればいいんじゃね…?!)
俺はそう思った。そして、七瀬を掴んでいる手を離す。
「俺に勉強を教えてくれ!」
頭を下げて俺がそう言うと、七瀬は困っているようだった。
「頼む!」
俺が必死に懇願すると、七瀬は耳元に顔を近づけてそっとこう言った。
「…あのファミレスで日記の交換できるなら、いいよ」
七瀬の優しい吐息が耳にかかる。俺の耳はほんのりと熱を帯びる。熱い。
七瀬を見ると、ニコニコと笑っていた。俺はそっぽを向く。七瀬と今目があったらまずい。そう思っていた俺に、七瀬はぐいぐいと顔を近づけてきた。
「っは?!」
俺は思わず大きな声が出てしまう。すると、七瀬が
「なんか顔赤くない?」
と少し笑いながら言ってきた。俺は七瀬を睨みつける。
(こいつ…俺で遊んでやがる……)
俺はとりあえず適当にあしらう。
「赤くねーよ」
俺がそう言うと、七瀬はつまらないとでも言いたげな顔を見せてくる。すると、目の前に人影が現れた。
「王子、一年呼んでる」
俺はそう言われて、急いで廊下へ向かう。来てくれた子を待たせるのは良くない。
廊下に出ると、そこにはツインテールの可愛い子が立っていた。その子は俺にギュッと抱きついてきた。俺にとっては知らない子だったので、少し焦る。
「えっと…」
俺がそういうと、彼女は当たりをちらちらと見回して、ホッと息を吐いた。
「どうしたの?」
俺がそう聞くと、彼女の肩はビクッと震えた。彼女は怯えの目で俺を見ている。
「あ…」
やがて足もカタカタと震え出し、目には涙が光ってきた。俺はその子の腕を掴んで図書室まで全力で走った。
「すみませんでした…」
図書室に着くと、まず初めにそう言われた。俺は心配の目で彼女を見る。すると、彼女は俺の目に真剣な表情で見つめ返してきた。
「私、元カレに追われてるんです…」
すると、彼女は自己紹介と共に、何があったかを話してくれた。
名前は柳沢翼。
元カレは風堂怜。(七瀬と同じ名前)
一ヶ月前に別れたはずなのに、毎日つけられているらしい。そして、朝登校してきて、口論になってしまい、「新しい彼氏いるから!」と宣言してしまったのだとか。
そこで、彼氏のフリを一週間だけしてほしいと。
「なんで一週間なの?」
俺がそう聞くと、柳沢さんは、ふぅっと息を吐いた。
「怜が海外に引っ越すんです。それがちょうど一週間後。それまで付き合っているフリをできれば、逃げられると思ったんです」
彼女の言っていることはもっともだ。それに、俺は彼女を助けてあげたいと思った。
「じゃあ、よろしくお願いします。休み時間ごとに教室に行くから、俺が来るまでは、風堂から逃げててほしい」
俺がそう言うと、柳沢さんはニッとはにかんだ。
その後、柳沢さんに「翼でお願いします」と言われたので、翼ちゃんと呼ぶことにした。
俺は翼ちゃんと一緒に教室に戻る。するとさっそく、
「翼!」
廊下の向こうから走ってくる人影。
「ふ…うどうさん…」
翼ちゃんの顔がどんどん青くなる。
風堂は俺そっちのけで話を進める。
「翼、今日は空いてるよね…?一緒にファミレス行こうよ〜!」
その誘いに対して、翼ちゃんは、首を横に振っている。しかし、風堂は誘うのをやめない。俺はその状況に少し腹が立った。風堂の手を掴んで、翼ちゃんから引き剥がす。
「翼ちゃんが嫌がってるでしょ」
俺がそう言うと、風堂はあからさまに嫌悪感を出してきた。
「誰だてめぇ?」
風堂がずいっと近づいてくる。俺と翼ちゃんは視線を合わせる。ここからは打ち合わせ通りの流れだ。
「累先輩だよ!通称王子!私が少し前に告白したら付き合ってくれた…!だから、彼氏だよっ…!」
翼ちゃんは必死にそのことを伝えている。
俺は王子。
こんなところで屈するような人ではないはず。
「翼の彼氏っ……?!」
風堂は明らかに動揺しているようだった。それも仕方ないだろう。ずっと好きだった翼ちゃんに、新しい彼氏ができているのだから。
「じゃあ、さよなら!」
翼ちゃんは俺の手を握って、駆け出す。そして、そのまま俺の教室に行った。
「先輩…。本当にありがとうございました。これから一週間、よろしくお願いします」
そう言って翼ちゃんは教室を去っていった。
その頃、七瀬は…
「累の何なの?」
「なんて答えれば満足ですか?」
柳沢翼と話していた。柳沢翼、この子はさっき恐ろしい笑みを浮かべていた。怖すぎる笑みを。
「…先輩の仮カノです。…やがて、カップルとなる予定です♩」
俺はそれを聞いて、驚いた。違う、累、騙されている。
「でも、君、元カレいたよね?」
俺がそう聞くと、柳沢翼はニコッと笑った。
「あの人は私の駒となって動いてもらう」
そう言って踵を返していった。
(累を守らないと…)
俺はそう、決意した。
「累…」
七瀬に声をかけられた。いつもの七瀬だけど少し違う感じがする。
「どうした?」
俺がそう聞くと、七瀬は席について、
「柳沢翼って子と付き合っているの?」
七瀬にそう聞かれた。
(うわ…。もう噂回ってるのかよ……)
俺が微妙な顔をしていると、七瀬は顔を近づけてもう一度聞いてきた。
「柳沢翼と付き合ってるの?」
「…あの子は元カレに付き纏われていたらしくて…。それで一週間だけ、カレカノになることを約束した。だから一週間限りの関係だよ」
俺がそう言うと、七瀬はホッとした表情を浮かべて、
「良かった」
と一言呟いた。
学校が終わり、俺は七瀬とファミレスで勉強する…つもりだった。
「じゃあ、累、いつものとこでいいよね?」
そう聞かれて、俺は頷く。テキストをいくつか抱えて、ファミレスに向かう。すると、校門から走ってくる翼ちゃんが見えた。
「先輩…。また風堂に追われてっ…」
翼ちゃんは必死に逃げてきて疲れているのか、額には汗が滲んでいた。
「七瀬…」
俺が七瀬に声をかけると、七瀬は、
「先行ってる」
と言って、歩き出した。俺は翼ちゃんに向き合う。
「ごめん。今日は勉強しないといけないから…」
俺がそう言うと、翼ちゃんは涙を流し始めた。
「じゃあ、風堂に追われてろって先輩は言いたいんですか…?!ひどいです!!」
わーっと翼ちゃんが泣き出した。俺は焦る。
(これじゃ俺が泣かせたみたいじゃん……。いや、そうか…)
俺は翼ちゃんの頭をぽんぽんと撫でる。
「そういう意味ではないよ。ほら、家まで送るから」
そう言って翼ちゃんを説得して、家まで送った。
ファミレスに着く頃には、七瀬と別れて一時間くらい立っていた。
(七瀬はっ……)
俺は店内を見渡す。すると、いつもの席に七瀬が座って勉強していた。メガネをかけている。
「七瀬…遅くなった……」
俺がそういうと、七瀬は、
「ん」
と返事をしただけだった。俺は、七瀬の正面の席に座る。すると、俺たちの関係を表すかのように雨がポツポツと降り始めた。
「…累さ」
沈黙の中、勉強していると、七瀬が声をかけてきた。
「あの子、一週間経ったら絶対別れろよ?一週間経たなくてもいいけど」
突然そんなことを言われて、俺は驚く。やっとのことで、「なんで?」と聞き返す。
「あの子、絶対性格悪い。お前のこと狙ってるだけだよ」
七瀬にしては珍しく厳しい口調でそう言ってきた。俺の中では怒りが湧き上がる。
「だいたい一週間だけ付き合ってくださいってなんだよ…。やっぱ狙ってるだろ……」
「七瀬は、あの子と話したことあんのかよ?!」
俺は机を叩いて立ち上がっていた。
七瀬は驚きで、外そうとしていたメガネを落としかけている。俺の手からは握られていたシャーペンが落ちる。
カツーンと音がした。
俺たちは何も話さない。雨の音が響く空間が出来上がっている。
俺は我にかえり、七瀬をキッと睨みつける。
「代金はこれだから」
俺はお金を机のたたきつけて、七瀬を置いて帰ることにした。俺が帰ろうとしたとき、七瀬は俺を見て、
「いつか、自分は間違っていたんだと気づくよ」
と言った。俺はさらにその一言にカッとなった。
(こいつともう話すもんか…!)
俺は雨の中、傘もささずに帰った。
次の日、学校に着いて教室に入ると、すでに七瀬はいた。七瀬は俺に気づき、何かを言おうとしていたが、俺は無視して立ち去った。
すると、廊下に翼ちゃんが来た。
「先輩!…風堂、明日で留学です…!」
翼ちゃんの瞳は心なしか輝いていた。俺は翼ちゃんが安心して学校生活を送れるのなら、それは喜ばしいことだと思っている。
「てか、翼ちゃん、テストあるよね?」
俺が恐る恐るそう聞くと、翼ちゃんはこくんと頷いた。
「ありますね…」
翼ちゃんの表情は一気に曇る。
(テストの話題なんて出さなきゃよかったー)
俺は心の中で自分の言葉をぶん殴る。
「っじゃあ、勉強会しませんか…?」
「いいけど…」
俺がそういうと、翼ちゃんはニコッと笑う。
(七瀬と勉強するよりも楽しいかもな)
俺はそんなことを考えてしまう。そんな自分に嫌気がさしてしまう。
「じゃあ、学校の近くにあるファミレスで待ち合わせしましょう?」
すると、「突然七瀬が勢い良く立ち上がる。
今の会話が聞こえていたのかもしれない。
「先輩!待ちましたか?」
翼ちゃんがあざとい声で言ってくる。
「待ってない。あと、今日でこの関係はおわりね」
俺は昼間の七瀬の行動からの苛立ちか、自然と冷たくなってしまう。
「えーいやですよ。本当に付き合いません?」
そう言って、ファミレスを出て、裏のやばそうなところへ連れていかれる。
(ここ、明らかにやばいところだろ…)
俺がそう思って、帰ろうとしたとき、翼ちゃんが足を止める。そこはホテルの前。
「さ、ここですよ♪」
いつもの口調でそう言ってくる翼ちゃんが怖い。すると、
「累!!」
七瀬の声が聞こえた。俺は急いで七瀬のもとへ駆け寄る。
「柳沢翼、もうあきらめろ。元カレとの関係も自分自身でどうにかしろ…」
七瀬の声は恐ろしく冷たかった。そして、俺は七瀬に手を引かれて裏の通りを抜ける。そしてすぐそこにある公園に入る。
あたりは少し薄暗い。
公園に入ると、七瀬はブランコに腰かけた。俺も隣に座る。
「…さっきの危なかったな」
二人の間の沈黙を破ったのは七瀬だった。七瀬にそう言われて俺はうなずく。
「助けてくれてありがとう」
俺がそういうと七瀬はくすっと笑って、
「ん」
といった。そして、俺はまだ七瀬に伝えないといけないことが残っている。
「七瀬にひどいこと言って悪かった。全部七瀬が正しかった。本当にごめん」
俺がそういうと、七瀬はにっと笑った。
「俺も累のこと考えずに自分の考えを押し付けてた。累からしたら仲のいい女の子なのに、突然その子の悪口言われたらいやだよね、ごめん」
七瀬にそう言われて俺はうなずく。
「じゃあ、仲直りってことでいいよな?」
俺がそう聞くと、七瀬は力強くうなずいた。
「じゃあ、明日からファミレス行こう」
そういわれて、俺は、「行こう」と返事をする。
すっきりとした俺の気持ちを表すかのように、薄暗い空には一番星が輝いている。
文化祭が終わったのに、テストがある。
「はーい。テスト二週間前ということで、範囲表を配るぞー」
先生が各列に範囲表を配る。俺は渡された範囲表を見て、心の中で絶叫する。
(おい…。範囲広すぎだろ?!)
教科書を取り出してパラパラと見る。やっぱり範囲は以上に広い。
ホームルームが終わり、俺は机にふせる。
「う〜」
俺が唸っていると、七瀬が肩を叩いてきた。
「どうしたの?」
七瀬がニコニコの笑顔でそう聞いてきた。俺は七瀬をチラリと見る。
(確かこいつって……)
「お前、めちゃめちゃ頭いいよな?」
七瀬にそう聞くと、七瀬は首を傾げる。誰のことだろうと悩んでいるようだった。
「七瀬のことだよ」
俺がそう言うと、七瀬は手をブンブンと振った。
「悪いよ!」
そう叫んできたので、俺は七瀬に次の質問をする。
「じゃあ、前に学校のテストの最高順位教えろ」
俺が半睨みでそう言うと、七瀬は指をちょんちょんと触りながらこう答えた。
「…い、一位」
俺は思わず掴みかかる。
「七瀬ええええ?!」
「ご、ごめんなさーい!!」
七瀬はそう言うが、俺は掴んだまま離さない。
(まて…?よく考えたら、こいつに勉強教わればいいんじゃね…?!)
俺はそう思った。そして、七瀬を掴んでいる手を離す。
「俺に勉強を教えてくれ!」
頭を下げて俺がそう言うと、七瀬は困っているようだった。
「頼む!」
俺が必死に懇願すると、七瀬は耳元に顔を近づけてそっとこう言った。
「…あのファミレスで日記の交換できるなら、いいよ」
七瀬の優しい吐息が耳にかかる。俺の耳はほんのりと熱を帯びる。熱い。
七瀬を見ると、ニコニコと笑っていた。俺はそっぽを向く。七瀬と今目があったらまずい。そう思っていた俺に、七瀬はぐいぐいと顔を近づけてきた。
「っは?!」
俺は思わず大きな声が出てしまう。すると、七瀬が
「なんか顔赤くない?」
と少し笑いながら言ってきた。俺は七瀬を睨みつける。
(こいつ…俺で遊んでやがる……)
俺はとりあえず適当にあしらう。
「赤くねーよ」
俺がそう言うと、七瀬はつまらないとでも言いたげな顔を見せてくる。すると、目の前に人影が現れた。
「王子、一年呼んでる」
俺はそう言われて、急いで廊下へ向かう。来てくれた子を待たせるのは良くない。
廊下に出ると、そこにはツインテールの可愛い子が立っていた。その子は俺にギュッと抱きついてきた。俺にとっては知らない子だったので、少し焦る。
「えっと…」
俺がそういうと、彼女は当たりをちらちらと見回して、ホッと息を吐いた。
「どうしたの?」
俺がそう聞くと、彼女の肩はビクッと震えた。彼女は怯えの目で俺を見ている。
「あ…」
やがて足もカタカタと震え出し、目には涙が光ってきた。俺はその子の腕を掴んで図書室まで全力で走った。
「すみませんでした…」
図書室に着くと、まず初めにそう言われた。俺は心配の目で彼女を見る。すると、彼女は俺の目に真剣な表情で見つめ返してきた。
「私、元カレに追われてるんです…」
すると、彼女は自己紹介と共に、何があったかを話してくれた。
名前は柳沢翼。
元カレは風堂怜。(七瀬と同じ名前)
一ヶ月前に別れたはずなのに、毎日つけられているらしい。そして、朝登校してきて、口論になってしまい、「新しい彼氏いるから!」と宣言してしまったのだとか。
そこで、彼氏のフリを一週間だけしてほしいと。
「なんで一週間なの?」
俺がそう聞くと、柳沢さんは、ふぅっと息を吐いた。
「怜が海外に引っ越すんです。それがちょうど一週間後。それまで付き合っているフリをできれば、逃げられると思ったんです」
彼女の言っていることはもっともだ。それに、俺は彼女を助けてあげたいと思った。
「じゃあ、よろしくお願いします。休み時間ごとに教室に行くから、俺が来るまでは、風堂から逃げててほしい」
俺がそう言うと、柳沢さんはニッとはにかんだ。
その後、柳沢さんに「翼でお願いします」と言われたので、翼ちゃんと呼ぶことにした。
俺は翼ちゃんと一緒に教室に戻る。するとさっそく、
「翼!」
廊下の向こうから走ってくる人影。
「ふ…うどうさん…」
翼ちゃんの顔がどんどん青くなる。
風堂は俺そっちのけで話を進める。
「翼、今日は空いてるよね…?一緒にファミレス行こうよ〜!」
その誘いに対して、翼ちゃんは、首を横に振っている。しかし、風堂は誘うのをやめない。俺はその状況に少し腹が立った。風堂の手を掴んで、翼ちゃんから引き剥がす。
「翼ちゃんが嫌がってるでしょ」
俺がそう言うと、風堂はあからさまに嫌悪感を出してきた。
「誰だてめぇ?」
風堂がずいっと近づいてくる。俺と翼ちゃんは視線を合わせる。ここからは打ち合わせ通りの流れだ。
「累先輩だよ!通称王子!私が少し前に告白したら付き合ってくれた…!だから、彼氏だよっ…!」
翼ちゃんは必死にそのことを伝えている。
俺は王子。
こんなところで屈するような人ではないはず。
「翼の彼氏っ……?!」
風堂は明らかに動揺しているようだった。それも仕方ないだろう。ずっと好きだった翼ちゃんに、新しい彼氏ができているのだから。
「じゃあ、さよなら!」
翼ちゃんは俺の手を握って、駆け出す。そして、そのまま俺の教室に行った。
「先輩…。本当にありがとうございました。これから一週間、よろしくお願いします」
そう言って翼ちゃんは教室を去っていった。
その頃、七瀬は…
「累の何なの?」
「なんて答えれば満足ですか?」
柳沢翼と話していた。柳沢翼、この子はさっき恐ろしい笑みを浮かべていた。怖すぎる笑みを。
「…先輩の仮カノです。…やがて、カップルとなる予定です♩」
俺はそれを聞いて、驚いた。違う、累、騙されている。
「でも、君、元カレいたよね?」
俺がそう聞くと、柳沢翼はニコッと笑った。
「あの人は私の駒となって動いてもらう」
そう言って踵を返していった。
(累を守らないと…)
俺はそう、決意した。
「累…」
七瀬に声をかけられた。いつもの七瀬だけど少し違う感じがする。
「どうした?」
俺がそう聞くと、七瀬は席について、
「柳沢翼って子と付き合っているの?」
七瀬にそう聞かれた。
(うわ…。もう噂回ってるのかよ……)
俺が微妙な顔をしていると、七瀬は顔を近づけてもう一度聞いてきた。
「柳沢翼と付き合ってるの?」
「…あの子は元カレに付き纏われていたらしくて…。それで一週間だけ、カレカノになることを約束した。だから一週間限りの関係だよ」
俺がそう言うと、七瀬はホッとした表情を浮かべて、
「良かった」
と一言呟いた。
学校が終わり、俺は七瀬とファミレスで勉強する…つもりだった。
「じゃあ、累、いつものとこでいいよね?」
そう聞かれて、俺は頷く。テキストをいくつか抱えて、ファミレスに向かう。すると、校門から走ってくる翼ちゃんが見えた。
「先輩…。また風堂に追われてっ…」
翼ちゃんは必死に逃げてきて疲れているのか、額には汗が滲んでいた。
「七瀬…」
俺が七瀬に声をかけると、七瀬は、
「先行ってる」
と言って、歩き出した。俺は翼ちゃんに向き合う。
「ごめん。今日は勉強しないといけないから…」
俺がそう言うと、翼ちゃんは涙を流し始めた。
「じゃあ、風堂に追われてろって先輩は言いたいんですか…?!ひどいです!!」
わーっと翼ちゃんが泣き出した。俺は焦る。
(これじゃ俺が泣かせたみたいじゃん……。いや、そうか…)
俺は翼ちゃんの頭をぽんぽんと撫でる。
「そういう意味ではないよ。ほら、家まで送るから」
そう言って翼ちゃんを説得して、家まで送った。
ファミレスに着く頃には、七瀬と別れて一時間くらい立っていた。
(七瀬はっ……)
俺は店内を見渡す。すると、いつもの席に七瀬が座って勉強していた。メガネをかけている。
「七瀬…遅くなった……」
俺がそういうと、七瀬は、
「ん」
と返事をしただけだった。俺は、七瀬の正面の席に座る。すると、俺たちの関係を表すかのように雨がポツポツと降り始めた。
「…累さ」
沈黙の中、勉強していると、七瀬が声をかけてきた。
「あの子、一週間経ったら絶対別れろよ?一週間経たなくてもいいけど」
突然そんなことを言われて、俺は驚く。やっとのことで、「なんで?」と聞き返す。
「あの子、絶対性格悪い。お前のこと狙ってるだけだよ」
七瀬にしては珍しく厳しい口調でそう言ってきた。俺の中では怒りが湧き上がる。
「だいたい一週間だけ付き合ってくださいってなんだよ…。やっぱ狙ってるだろ……」
「七瀬は、あの子と話したことあんのかよ?!」
俺は机を叩いて立ち上がっていた。
七瀬は驚きで、外そうとしていたメガネを落としかけている。俺の手からは握られていたシャーペンが落ちる。
カツーンと音がした。
俺たちは何も話さない。雨の音が響く空間が出来上がっている。
俺は我にかえり、七瀬をキッと睨みつける。
「代金はこれだから」
俺はお金を机のたたきつけて、七瀬を置いて帰ることにした。俺が帰ろうとしたとき、七瀬は俺を見て、
「いつか、自分は間違っていたんだと気づくよ」
と言った。俺はさらにその一言にカッとなった。
(こいつともう話すもんか…!)
俺は雨の中、傘もささずに帰った。
次の日、学校に着いて教室に入ると、すでに七瀬はいた。七瀬は俺に気づき、何かを言おうとしていたが、俺は無視して立ち去った。
すると、廊下に翼ちゃんが来た。
「先輩!…風堂、明日で留学です…!」
翼ちゃんの瞳は心なしか輝いていた。俺は翼ちゃんが安心して学校生活を送れるのなら、それは喜ばしいことだと思っている。
「てか、翼ちゃん、テストあるよね?」
俺が恐る恐るそう聞くと、翼ちゃんはこくんと頷いた。
「ありますね…」
翼ちゃんの表情は一気に曇る。
(テストの話題なんて出さなきゃよかったー)
俺は心の中で自分の言葉をぶん殴る。
「っじゃあ、勉強会しませんか…?」
「いいけど…」
俺がそういうと、翼ちゃんはニコッと笑う。
(七瀬と勉強するよりも楽しいかもな)
俺はそんなことを考えてしまう。そんな自分に嫌気がさしてしまう。
「じゃあ、学校の近くにあるファミレスで待ち合わせしましょう?」
すると、「突然七瀬が勢い良く立ち上がる。
今の会話が聞こえていたのかもしれない。
「先輩!待ちましたか?」
翼ちゃんがあざとい声で言ってくる。
「待ってない。あと、今日でこの関係はおわりね」
俺は昼間の七瀬の行動からの苛立ちか、自然と冷たくなってしまう。
「えーいやですよ。本当に付き合いません?」
そう言って、ファミレスを出て、裏のやばそうなところへ連れていかれる。
(ここ、明らかにやばいところだろ…)
俺がそう思って、帰ろうとしたとき、翼ちゃんが足を止める。そこはホテルの前。
「さ、ここですよ♪」
いつもの口調でそう言ってくる翼ちゃんが怖い。すると、
「累!!」
七瀬の声が聞こえた。俺は急いで七瀬のもとへ駆け寄る。
「柳沢翼、もうあきらめろ。元カレとの関係も自分自身でどうにかしろ…」
七瀬の声は恐ろしく冷たかった。そして、俺は七瀬に手を引かれて裏の通りを抜ける。そしてすぐそこにある公園に入る。
あたりは少し薄暗い。
公園に入ると、七瀬はブランコに腰かけた。俺も隣に座る。
「…さっきの危なかったな」
二人の間の沈黙を破ったのは七瀬だった。七瀬にそう言われて俺はうなずく。
「助けてくれてありがとう」
俺がそういうと七瀬はくすっと笑って、
「ん」
といった。そして、俺はまだ七瀬に伝えないといけないことが残っている。
「七瀬にひどいこと言って悪かった。全部七瀬が正しかった。本当にごめん」
俺がそういうと、七瀬はにっと笑った。
「俺も累のこと考えずに自分の考えを押し付けてた。累からしたら仲のいい女の子なのに、突然その子の悪口言われたらいやだよね、ごめん」
七瀬にそう言われて俺はうなずく。
「じゃあ、仲直りってことでいいよな?」
俺がそう聞くと、七瀬は力強くうなずいた。
「じゃあ、明日からファミレス行こう」
そういわれて、俺は、「行こう」と返事をする。
すっきりとした俺の気持ちを表すかのように、薄暗い空には一番星が輝いている。



