王子の俺よりも、さらにイケメンな転校生がやってきました

夏休み明けの初日。
みんなの外見は少し変わっている。
女子は少し焼けていて、男子は………
「お前、進化してる…」
浦野にそう言われた。そう、進化する男子と進化しない男子にわかれるのだ。(多分)
九月は特に何もすることがない。行事もない。
「おはよー」
海に一緒に行ったメンツが続々と揃ってくる。本庄や氷川が登校してきた。
「一条、進化しているね」
本庄にそう言われる。俺はふいっとそっぽを向く。ただただ髪の毛を切っただけなんだけど。
俺はそのまま教室に向かう。すると、すでに七瀬がいることに気づく。
(うわー…)
俺はめんどくさくて、話しかけたくない。すると、
「あ、累…」
と声をかけてきた。それと同時に廊下から俺を呼ぶ声が聞こえてきたので、俺はすぐさまその場を離れる。
「王子が進化してるって聞いてきちゃったー」
「まじかっこいい」
「カラオケ行かない?」
俺はそう提案されて、スマホを開く。スケジュールの確認だ。今日は空いている。
「いいよ」
そう言うと女子たちは大喜びだ。俺はその喜んでいる顔を見て吹き出しそうになる。ジャンプして死ぬほど喜んでいるから。
「ありがとねーっ」
女子たちはお礼を言って自分たちの教室へ帰って行った。俺が席に着こうとすると、スマホが鳴った。電話だ。
[ごめんなさい。今いい?]
声の主は莉奈ちゃんだ。七瀬をチラッと見ると、何か話しかけようとしていた。しかし、莉奈ちゃんを待たせるわけにはいかない。
教室の隅で電話をする。
「どうした?」
俺がそう聞くと、莉奈ちゃんは、
[こないだ夏祭り行ったときに、一条さんのハンカチを借りてしまって…まだそれを返していないんです]
と。俺はその時の出来事を思い出す。確かに俺は莉奈ちゃんにハンカチを貸した。
「あ、全然大丈夫よ」
俺がそう言うと、電話の向こうの莉奈ちゃんはホッとしたらしい。
[今日、返しに行きますね]
そう言った。俺は申し訳なくて、
「無理しなくていいよ」
と言う。でも、彼女は頑なに、
[い…行くから…!]
と言った。俺は申し訳ないという気持ちもあるが、あまり会いたくないという気持ちもある。まだ告白の返事をしていないからだ。あの後、長い夏休みを経たが、答えはいまだに出ていない。
彼女はその返事を聞けると思っているのだろう。
でも今、電話をしている莉奈ちゃんはすごく可愛いと思う。好きとはちょっと違う気もするが。だからといって付き合いたいというわけでもない。
俺が悩んでいると、電話はいつの間にか切れてしまった。
「はーぁ…」
俺が席に着くと、七瀬がこちらを向いてきた。七瀬の目はどこか虚ろだ。俺は君が悪くてそっぽを向く。
「累」
不意にそう聞かれて、俺は七瀬の方に向き直る。
「何?」
俺がそう聞くと、七瀬は、
「付き合ったのか…?俺との約束は…?」
そう聞かれて俺はハッとする。約束をすっかり忘れてしまっていたのだ。莉奈ちゃんとの出来事に夢中になりすぎていた。
「それはごめん…!明日から…ね?」
俺がそう言うと、七瀬は顔を少し輝かせた。それより…
「付き合ったってどういうこと?」
俺が満面の笑みで圧をかけて聞くと、七瀬は、
「女の子と歩いているのを目撃しちゃったんだよね…」
と言った。まさか莉奈ちゃんといるところがバレているとは。
「え、なになに?」
「王子に彼女?!」
クラスのみんながザワザワと騒ぎ出す。直感で感じる。この状況はまずいと。すると、七瀬が大きな音を立てて席を立つ。
「行くよ」
手を引っ張られて連れて行かれたのは、屋上だった。風がふわぁっと吹いている。
七瀬はフェンスに両腕をついてこう言った。
「俺、なんかした?」
その言葉は本気だった。七瀬の目はふざけていなかった。
「既読無視して、約束は守ってくれない…」
ぼそっと呟いたその一言を聞いた瞬間、俺は申し訳なさでいっぱいになった。七瀬のことが嫌いでも、さすがにやりすぎなのはわかる。
「ごめん。…じゃあ、明日、お前のしたいこと一緒にしてやるからさ」
そう言うと、七瀬の顔が輝き始める。ただそう言っただけなのに。
「じゃあ、ファミレス行こう!」
七瀬がそう言う。俺はめんどくさいけど、頷いた。
「でもなんで今日じゃないの?」
七瀬にそう聞かれて俺は、
「今日は友達と会う約束してるから」
そう言った瞬間、七瀬の顔にシワがより始める。
(なんだなんだなんだなんだ…?!)
俺がパニックになっていると、
「もしかして、彼女?」
と聞いてきた。俺はホッとすると同時に手をぶんぶんと振る。莉奈ちゃんは彼女じゃない。告られてはいるけど。
「そういう関係じゃない」
そう言うと、七瀬はホッとした表情を見せた。
(なんでお前がホッとするんだよ…)
俺は不思議に思う。別にお前の問題じゃないんだからそんな顔しなくていいと思うんだけど……。
「じゃあ、そういうことだから」
俺が屋上の扉を引いて出ようとした瞬間、
「まだ」
背中からギュッと抱きしめられた。もちろん、屋上にいるのは、俺と七瀬の二人だけ。
まだと言っていたこの声も俺を抱きしめているこの手も全て……
俺はバッとその手を振り解いて、屋上から出た。教室まで全速力で走る。まだ朝のホームルームは始まっていない。
「王子」
「お急ぎの王子だ!」
ところどころで声をかけられる。俺はどう答えたらいいのかわからず、ただただ走る。いつもなら手を振ったり、少し雑談したり…そんな余裕もないくらい、さっきの出来事が胸に突き刺さって離れない。
(なんで…なんで……?)
七瀬はどうして俺を抱きしめた?
俺の頭の中はぐちゃぐちゃだ。結局、ぐちゃぐちゃなまま一日を終えてしまった。
帰りのホームルームのとき、
[一条さん、今日行けそうにないです…]
そうLINEが来た。俺はすぐに返事を打ち込む。
[じゃあ、明日かな?]
そう聞くと、既読がついて、
[そうですね…。ごめんなさい]
と返事が返ってきた。
(じゃあ、今日、七瀬といける…!)
俺はそう思った。でも今はホームルーム中だ。七瀬の机をこんこんと叩く。
「どうしたの?」
ひそひそ声で返事が返ってきた。
「今日行ける?」
俺がそう聞くと、七瀬は笑顔で頷いた。これで、ちゃんと約束を果たせる。そう思うと、気分がスッキリした。

「累!行こう!」
手を掴まれてぐいぐいと引っ張られる。俺はそれにおとなしくついていく。
「最近、王子とキングのコンビよく見る」
「キング〜!!」
「王子っっっっ!」
俺派と七瀬派がバチバチとぶつかり合っている。俺たちにはファンクラブが存在しているらしい。
どこからともなく応援うちわを取り出したり、プレゼントを渡してきたり…。
怖いところも山ほどあるが、それでも悪さはしないのでそっとしておいている。
「久しぶりだぁ〜」
七瀬はニコニコの笑顔でファミレスに入っていく。俺も後に続く。
「いらっしゃいませ〜」
夏休み前はほぼ毎日通っていたこのファミレスがすごく懐かしく感じる。それも、七瀬といるからだろうか。
「じゃあ、ノート交換しよ」
七瀬が俺のノートを開く。そして、あ、と言う。
「俺、サッカー部入るんだ」
と言った。俺は驚きで飲み物を吹き出しそうになった。七瀬派部活に入るようなタイプじゃないと思っていたからだ。
「本当は陸上部もいいかなと思っていたんだけど、どうにも合わなそうで」
と言った。
「別に七瀬が入りたいところなら陸上でもいいんじゃない?」
俺がそう言うと、七瀬は意外そうな表情をして、
「俺が陸上入るって言ったら絶対嫌そうな顔するでしょ。なのに、陸上でもいいんじゃないって……。ま、俺、結構サッカーできるからさ」
ドヤ顔でそう言われてちょっとイラつく。
「サッカーのキングと陸上の王子。どっちが勝つのかなぁ」
そう七瀬が言った。俺は思わず、陸上の王子が勝つよと言いそうになった。陸上部エースの俺がサッカー部のキングに負けていられるわけがない。これは勝つしかないでしょ。
「わぁ…。すごいかっこいいって言われてるんだね」
七瀬は俺のノートを見ながらニヤニヤしている。俺も七瀬のノートを開く。七瀬も結構言われているらしい。
「めっちゃ書いてある…」
やっぱり少しムカつく。絶対に俺の方がかっこいいのにどうして七瀬もかっこいいと言われるんだろう?
「大人の色気があるらしいよ、俺には」
七瀬がそう答えたので、俺は驚きでカチコチだ。今の疑問は口にしていないはずなのになんで七瀬が知っているんだ?
「顔に疑問が出てたよ。俺の方がかっこいいはずなのにって」
あははと笑いながらそう言う七瀬。俺は不満がいっぱいだ。
「俺がかっこいいのは事実だから」
俺がそう言うと、七瀬はさらに大爆笑し始めた。
俺は、七瀬といるのが当たり前で幸せになってきているのを深く感じた。