王子の俺よりも、さらにイケメンな転校生がやってきました

暑い日差し、素晴らしい季節。
八月といえば、夏休みに大会、夏祭り。
俺は今年も平穏な夏休みを過ごす…
「累っ!!」
つもりだった。ここ最近、七瀬にずっと付き纏われている。七瀬が言うには、夏休み中に遊びたいのだとか。
俺はその誘いを毎回断っている。最近はめんどくさくて無視になってきているが。
「なんだよ…」
俺が呆れて疲れている声で返事をすると、七瀬は顔を輝かせて、
「やっと返事してくれた…!ねぇ、せめてLINEだけでも交換しよーよー」
と、俺の腕を掴んで振りながら言う。俺はすぐに察す。
(このままだと家に帰れない)
俺はしぶしぶカバンの中からスマホを取り出して、QRコードを表示する。
「おらよ」
七瀬にそれを見せると、七瀬は嬉しい!と言って、自分のスマホでそれを読み取った。
すると、画面に『Rei』という名前が表示される。
俺は今すぐブロックのボタンを押したかったが、グッと堪える。
俺はチラッと七瀬の顔を見る。
俺よりイケメン(絶対ありえないけど)で少し背が高い七瀬。
そんな七瀬が俺にべったり付き纏っている。なんのために?
「学校じゃ会えないからLINEで連絡する!」
そう言って七瀬はどこかに走っていった。
俺ははぁっとため息を一つ。七瀬と関わりたくないのに、七瀬が関わってくるこの状況。
俺はどうにかして変えたかったが、変えることもできないまま一ヶ月。
夏休みに入れば会わずに済むと思っていたが、それは間違いだったようだ。
俺はとぼとぼと家へ帰る。足取りはものすごく重い。
(あれだけ毎年楽しみにしていた夏休みが地獄になるんなんて……)
俺が俯いていると、ピコンとLINEが鳴る。
スマホを開くと、クラスの男子たちからだった。
[一条、海いこーぜ!女子も来るってよ!]
[誰が来るの?]
そこは俺にとって一番重要なポイントだ。七瀬が来るか来ないかによって、俺が行くか行かないかが決まる。
[男子は俺と西野と飯田、山崎とかのいつメン。女子は本庄、氷川、佐々木、村野だよ]
俺はその返信を見て、七瀬がいないことを知り、ホッとする。
(あんな奴と海とかちょっと無理だもんな……。いや、ちょっとどころじゃなく……)
[おけ。行くわ]
そう送ると、すぐに既読がついて、
[じゃあ、予定は…]
俺はその予定をじっくりと読み込む。夏休みに楽しみなことが一つ増えた。
さっきまで重かった足取りが軽くなる。俺はほぼほぼスキップの状態で家に帰った。

ついに海に行く日。
待ちに待ったお楽しみタイムだ。
「浦野!」
俺が友達の名を呼ぶと、そいつはパッと振り返る。
「おお!一条!待ってたぜ?」
そう言って肩を掴まれる。俺と浦野は中学校からの友達だ。
俺以外の人はすでについているらしく、みんなで俺を待っていたそうだ。
「海着いたら着替えしよー」
そう言ったのは、本庄だ。ギャルっぽくて、でもちゃんとしている不思議な女子だ。
「おっけーい」
それに返事をしたのは、本庄の友達の氷川だ。この二人は特に仲がいい。
俺たちはさっそく電車に乗り込み、近くのビーチへと向かう。
俺はどの電車に乗るのか一瞬迷いそうになったが、そんなところを浦野が助けてくれた。
そして…、
「えっかっこよ……」
「ねぇ、おにーさん、ちょっと遊び行かない?」
逆ナンだ。
しかも、声をかけてくるのは、みんな美人なお姉さん。
(日記って夏休み中もつけるんだっけ…?これ書いたら良さそう…)
俺はふとそう思った。しかし、すぐに思考を取り消す。
この一ヶ月、日記を書くことを続けてきたらすっかり身に定着してしまった。だから、ことあるごとに日記のことを考えてしまう。
でも夏休み中なら、日記を書くことも、それを話すためにファミレスに行くこともないだろう。
「すみません…。今から友達と遊び行くんで」
俺はそう言って手を振る。すると、お姉さんたちは去っていった。
俺が浦野たちのところへ戻ると、女子たちにはにやにや顔で、男子からは悔しそうな顔で見られた。
「一条、逆ナン?いいじゃん」
と本庄。
「くそぉ。一条…。お前は見た目最強だもんな…」
と浦野、西野、飯田、山崎。
俺たちは微妙な雰囲気のまま海に着いた。そして、水着に着替えて、砂浜に出る。本庄たちも出ているようだ。
「一条って顔もいい上に体もいい」
すました顔でそういう本庄。
「確かに。これは女子惚れるわ」
と氷川。佐々木と村野は後ろの方でキャッキャと遊んでいる。
「一条……」
男子からはがっかりしたような、気が抜けたようなそんな声がした。
そこで、
「あの…、その足元の、とっていただけませんか?」
と声をかけられた。黒髪のロングの女の子。とっても可愛かった。
「あ…これ?」
「あ…はい……ありがとうございます」
彼女はぺこっと頭を下げて去っていった。
「一条、また逆ナン?」
そう聞かれて、俺は首を振る。
「落とし物を拾ってあげただけ」
そう言って俺は海に入る。夏の海は冷たくて気持ちいい。ひんやりとしているところが最高だ。
すると、突然大波が来た。
「きゃあぁぁっ!!」
沖の方に流されてしまっている人がいる。
俺は急いで泳いで助けに向かう。
「浦野ーっ!先に上がってろ!」
俺はそう叫んで海の中に潜る。
(見つけた……!)
俺はその人を抱きかかえて、岸に戻る。幸い、さっきのような大波は来なかった。
(てか、よく見たらさっきの女の子じゃん…)
俺がそう思った瞬間、彼女の目がパチっと開いた。
「あ…」
彼女は口をぱくぱくさせている。俺もまた、そうなっているだろう。
「ありがとう…ございます……」
「いいえ…」
俺は岸に彼女をそっと下ろす。そして、その場を立ち去って、また遊びを再開した。
ビーチバレーに遠泳……。
存分に楽しんだので、友達と相談して、帰ることになった。すると、
「帰る前に写真撮ろー」
本庄が近づいてきた。みんなで集まる。
「撮るよー」
俺は無難なピースをして写真に映る。
「この写真インスタにあげていい?」
そう聞かれて、全員ほぼ同時に頷く。俺は写真を送ってもらった。
「じゃあ、着替えして、またここに集合で」
そう言ったのは浦野だ。女子たちも頷いている。俺たちは更衣室に入って、水着から服に着替える。
「あー楽しかった」
「夏祭りもこのメンツでいかね?」
飯田にそう誘われて、俺は確かにと思う。このメンツなら絶対に楽しいからだ。
「先出てるからな」
服を着替えて、更衣室を出る。そして集合場所に向かおうとしたとき、
「あ…、あのっ!」
後ろにぐいっと腕を引っ張られる。そこにはさっき助けた黒髪の女の子が立っていた。
「どうしたの?」
俺がそう言うと、女の子は頬を赤らめてこう言った。
「LINE、教えていただけませんか…?お礼もしたいので…」
そう言われて俺はいいよと言う。QRコードを彼女に見せると、彼女は顔を輝かせていた。
「ありがとうございます!私は、宇山莉奈って言います。あなたは…?」
そう聞かれて、俺は、
「一条、累です」
と言う。ちゃんとした自己紹介だ。七瀬のときとは大違い……。
(って、なんで七瀬と比較してんだよ…。まず比較対象にならないだろ!)
俺が頭の中でそう叫ぶと、彼女は不思議そうな顔でこちらを見ていた。変な顔になっていただろうか。
「一条さん、また今度、会いましょう!ありがとうございました!……助けてくれたとき、かっこよかったです!」
莉奈ちゃんはそう言って走り去っていった。元いた友達のところへ。
俺がその後ろ姿を見つめていると、
「おうじぃ!やっぱモテんね」
にやにや顔の浦野が立っていた。いや、浦野だけじゃない。本庄や氷川たちもだ。
「王子はやっぱかっこいいんだよね…」
みんなそう呟いていた。みんなは散々俺のことを馬鹿にした後、電車に乗り込む。もちろん、俺も。
[一条さん、先ほどはありがとうございました!後ほど、お食事とかどうですか…?]
LINEを開くと、莉奈ちゃんからそうメッセージが来ていた。
俺はすぐに返信を打ち込む。
[会いている日を送ってくれれば、合わせるよ〜]
と。すると、莉奈ちゃんはすぐに既読をつけた。
[じゃあ、明日とかは…?]
そう返事が来て、俺はスマホのカレンダーを開いて、予定を確認する。予定には何も入っていない。
[OK]
そう送ると、莉奈ちゃんからは喜びと日程のLINEが送られてきた。
しかし、俺はそのとき、重要なこと(俺にとっては対して重要じゃないけど、向こうにとってはめちゃくちゃ重要)なことを忘れてしまっていた。

「こんにちは…」
待ち合わせ場所には、白いワンピースに髪の毛にリボンをつけた莉奈ちゃんが立っていた。
「宇山さん、こんにちは」
俺が笑顔でそう言うが、莉奈ちゃんの顔は固まったままだ。
「どうしたの?」
俺がそう聞くと、莉奈ちゃんは、
「周りの人がずっとイケメンって騒いでて、緊張してます…。その、イケメンですし…。あと、莉奈でいいです」
と言った。俺は耳を澄ます。確かにイケメンだと騒いでいる人が数人いるようだ。
「莉奈ちゃん、行こう」
肩をトンっと押すと、莉奈ちゃんは歩き始めた。行きつけのレストランに案内してくれるらしい。
「ここです」
それは、俺が七瀬によく連れてこられていたレストランだった。俺は驚きのあまり固まる。
(もしかして、莉奈ちゃんは…)
俺のことをどこかで知っていたんじゃないかという疑問が出始める。
「莉奈ちゃんって、俺のこと知ってる…?」
おそるおそるそう聞くと、莉奈ちゃんはこくんと頷いた。
「ほぼ毎日来ているのを見て、私もって……。変かな?」
あははと笑いながらそう言う彼女の目にはうっすらと光る何かがあった。俺は首を横に振る。
「俺の行きつけでもあったし、莉奈ちゃんと来れて嬉しいよ」
そう言うと、莉奈ちゃんは顔を輝かせて、
「ありがとう!じゃあ、さっそく入りましょう!」
と、俺の手を引いてそう言った。

一時間ほど一緒に食事をして解散となった。
莉奈ちゃんは去り際に、
「また会いましょう!」
と言っていた。俺はそれに笑顔で返す。やっぱり莉奈ちゃんはとっても可愛い。
(さて、俺も帰るか…)
スマホを開いたその瞬間、10件ほどのLINEが目につく。それは全て七瀬からだった。俺はそれを開く。

[本庄さんのインスタ見た。俺も海行きたかった]

[なんで誘ってくれないの?]

[おーい]

[明日日記見せ合うんだからね!]

[あれー?]

[なんで既読つかないんだ?]

[おーい]

[約束忘れた?]

[とりあえずレストランいるよ]

[なんでお前女の子といるんだよ]

俺はそれを開いて一気に吐き気が押し寄せてくる。とりあえず既読をつけといて、返事は一切返さない。
(気持ち悪いもん見たな…)
俺はそのままフラフラと家に帰った。途中、誰かから何回か着信があった気もするけど、出なかった。

[夏祭り、一緒に行きませんか?]
それは莉奈ちゃんからのお誘いだった。
[いいよ]
今のところ誰からも誘いがないので、すぐにOKする。俺がそう送ると、リアクションがついて、
[じゃあ…]
集合場所と集合時間の説明が送られてきた。莉奈ちゃんが画面の向こうで喜んでいるのがわかる。
夏祭りの日が少し楽しみだ。

「こんにちは、一条さん」
夏祭りの日。集合場所へ向かうと、莉奈ちゃんが浴衣姿で立っていた。髪型も前と違う。とても可愛い。
俺はいつも通りラフな格好だ。
「わ…」
「お…」
「かっこいいです!」
「可愛い!」
二人の褒め言葉が同時に重なった。俺たちは笑みをこぼす。
(莉奈ちゃんといるとホッとする…)
ぽかぽかとした温かい気分になれるのだ。こんなこと、なかなかないだろう。
俺には彼女がまともにいた試しがないので、莉奈ちゃんがいいなら付き合いたい…とか。
「行きましょう」
莉奈ちゃんに手を引っ張られて、俺も歩く。
「私、イチゴ飴が食べたくて…、いいかな?」
そう聞かれて、俺は迷わずどうぞと言う。俺も食べたかったので、一緒に買いに行く。
「200円でーす」
俺は200円を渡して、イチゴ飴を受け取る。ツヤツヤとしたイチゴ飴はとても美味しそうだ。
パクッと口に入れると、甘さが広がる。美味しい。
「美味しいなぁ…」
莉奈ちゃんも横でもぐもぐと食べている。すると、
「あれ?王子じゃね?」
クラスの男子が声をかけてきた。莉奈ちゃんは驚いて固まっている。
「彼女?」
俺はそう聞かれて、首を横に振る。
「王子の横はキングじゃねえの?」
そう聞かれて、俺は真剣な顔で首を横に振る。あいつとセットだなんて、絶対に無理。
「じゃあ、私はこれで…」
莉奈ちゃんが立ち去ろうとしていたので、慌ててついて行く。
「ごめん。悪いやつらじゃないんだけど…」
俺がおそるおそるそう言うと、莉奈ちゃんはにっこりと笑って、
「大丈夫!」
と言った。その瞬間、どーんっと大きな音がした。空を見上げると、花火が上がっている。
「綺麗……」
俺は花火が上がるのを知らなかったので、ただただ驚く。
俺が花火に見とれていると、莉奈ちゃんがきゅっと手を握ってきた。俺は寂しいのかなとか思って、握り返す。
「ありがとうございます」
涙交じりの丁寧な感謝が聞こえてきて、俺はニコッと笑う。
すると、彼女は何やら真剣な表情で、こちらを向く。俺も真剣な顔で莉奈ちゃん見ると、
「好きです」
と言われた。俺はどうしたらいいのかわからなかった。どう返事をしたら…。
「返事はまた今度…」
今日はそこで解散になった。

一方、その頃…
「累くん…の彼女…?」
七瀬怜は今累が何をしているのか気になって、道で見かけた彼をずっとつけていた。
すると、女の子と待ち合わせして、デートしているのだ。
(どうして…。俺よりもあの子の方が……)
俺は絶望する。それと同時に決心する。
(どうにかして引き戻さなきゃ…)