王子の俺よりも、さらにイケメンな転校生がやってきました

二月。
2月と言えば……
「一条、今年もバレンタインたくさんもらえるんだろ〜??」
友達に頬を突かれながらそう言われた。
(もらえる…のかな……?)
去年もドキドキしながら2月14日を過ごしていた。結局、チョコレートは53個。
周りの男子たちからは「わけてくれぇ〜〜」という叫びでいっぱいだった。だが、今年は七瀬がいる。
(七瀬がいたら…俺…チョコレートもらえないんじゃ…)
「でも今年、七瀬いるじゃん」
俺がそう言うと、周りの男子たちは不満そうな顔をする。
「いいよなぁ〜そういうのはイケメンの悩みだぞ〜」
周りの男子たちからいやーな視線を感じて、俺は咄嗟に立ち上がる。そして、
「トイレ行くわっ」
と言う。すると、教室の横から七瀬がニョキっと出てきた。
「うわおっ」
俺が変な声を出して驚いていると、七瀬がくすくすと笑う。俺は七瀬をジトーっと見つめる。
「お前、今年、たくさんバレンタインもらうんだろ」
俺がそう言うと、七瀬は笑顔で、
「うん。ありがたいよね」
と言った。なんだかその一言が気持ち悪くて、俺はとにかく変な顔をしていたと思う。
(勝負するのは良くないって言ったけど…これに関してはっ……)
「チョコレートの数で勝負しよう?!」
俺がそう言うと、七瀬は俺に顔を近づけてくる。そして、わずか10センチの距離で、
「いいけど…負けちゃうかもよ?」
と言ってきた。俺は心臓が握りしめられる感覚に襲われる。七瀬の顔はやはり心臓に悪い。
「ま、負けねーし!!」
俺がそう言うと、七瀬はにこりと笑った。
「じゃあ、勝負する代わりに、バレンタインデーの日は、ファミレスで数を数えない?」
七瀬の方が身長が高いはずなのに、なぜが七瀬が上目遣いをしている。
(ん……?)
俺の脳内は半分思考停止状態に入る。そして、よくわからないまま
「もちろん!俺の方がすごいって証明してやる!!」
と宣言してしまったのだった。

一方、七瀬はというと……
「はーついに念願のバレンタインデーじゃん……」
こちらもこちらで心臓が握りしめられる感覚に襲われていた。その理由はもちろん、累だ。
「なんなんだよ…もう……」
俺は先程の累の顔を思い出す。累がなんだか可愛く見えてしまった。一応、イケメンなのに。
(こんなんで…俺…累にチョコレート渡せるか?)
勢いでさっきはファミレスでとか言ってしまったが、本当は心臓がバクバクしていたのだ。しかし、こんな姿を見せてしまったら、きっと累に笑われてしまう。
「あーもうっ!!」
俺は頭をガシガシとかいて、廊下に出たのだった。

時は過ぎ、ついにバレンタインデー。
「一条累くん!ちょっといいかな…?」
最初に声をかけてきたのは先輩だった。髪の毛をツインテールにしていて、明るめの茶髪にしている。
「なんでしょうか……?」
俺がそう言うと、その人はピンク色の小さな箱を渡してきた。
「はいっ!バレンタインチョコ!じゃあね!!」
その人は渡せたことに満足したのか、パタパタと走ってどこかにいってしまった。
(1個目!!)
俺は渡されたものを見つめる。デコレーションがとても可愛らしかった。
(ありがとうございます…)
俺は心の中でそう言った。
俺はその箱を片手に持ちながら、昇降口に入る。すると、靴箱の中にも一つあった。差出人は不明。
(ありがとうございます)
俺はまた心の中でそう言う。そして、教室に入る。すると、俺の机の上に箱がたくさんあった。近づいて見ると、机の中にも。
「何これ?!」
俺が驚いてそう言うと、一番最初に来ていた男子が
「さっきから次々と女子が現れて机の上に置いていってるの。まじうらやましーぜ」
と言ってきた。みんな朝から俺の机にチョコレートを置いていったのだ。
俺は置いていってくれた全ての女子にお礼を心の中で言う。机に置かれたものを一つ一つ見ていくと、先輩、後輩、同学年、友達…と様々だった。
(このチョコ…どうやって食べ切ったんだっけ?)
俺は去年のことを思い出す。去年はどうやってもらったチョコを食べ切ったのか、なかなか思い出せない。俺がうーんと唸っていると、七瀬が教室に入ってきた。
「はよー…ってか累の机、チョコまみれ!!」
と言われた。七瀬はそれがおもしろいらしく、ずっと笑っている。
「七瀬の机はどうなんだよ……?」
俺は先ほどまで自分の机にしか興味がなく、七瀬の机を一回も見ていなかった。横を見ると……
「なんだよこれっ?!?!」
七瀬の机にも大量のチョコの箱の山があった。若干、俺より多い気もする。七瀬は一つ一つ確認していっている。
(これ…勝負するのは良くないけど…七瀬の方がチョコの数、多いんじゃね?)
俺は心の中で焦る。どう見たって七瀬のチョコの方が多い気がしてきたから。
「七瀬……」
俺が呆然としていると、みんなの話題は俺と七瀬から逸れていったらしく、廊下に出ていった。すると、七瀬がそれを狙っていたのか、俺に近づいてきた。そして……
「…累、俺に負けたかもしれないって思った?」
と言ってきたのだ。俺の耳がわずかな熱を持つ。しかし、ここでひよっている姿を見せてはならない。俺はそう思った。
「負けるわけないじゃん!!」
俺がそう言うと、七瀬は俺のおでこを軽く指で弾く。そして、
「放課後、待ってるから」
と言って自分の席に着いたのだった。そして、長いようで短いホームルームが始まる。

一時間目 国語 チョコレートのことが頭から離れなくて集中できず。小テストは10点中3点。
二時間目 理科 炎を使う実験だった。危うくプリントを燃やすところだった。(チョコのせい)
三時間目 体育 サッカー。変な方向に走ってしまい、ボールが顔面に。(七瀬の言葉のせい)
四時間目 社会 七瀬が同じグループでメンタルボロボロに破壊済み。
五時間目 数学 ご飯を食べたあとというのもあり、ぼーっとして半寝状態。
六時間目 英語 ALTの質問に答えられず、みんなに笑われる。もちろん七瀬も笑ってる。

俺の1日はこう言う感じだった。七瀬のこととチョコレートのことが頭の中を邪魔してきて、うまく説明できないような状況だった。それを知っているのか、七瀬はさらに俺に近づいてくる。
(勘弁してくれ……)
いくら七瀬と過ごしていて楽しくても、これでは体が持たないだろう。
「累ー!!」
そう思っていた矢先、七瀬が後ろから走ってきた。俺は思わず避ける姿勢をしてしまう。
「早く行こう!!」
七瀬は本気で笑っているようだった。七瀬の笑顔を見れるなんてなんか久しぶりな気がする。よく見ると結構かっこいい気もするし……。
(…って俺はイケメンを眺める女子かよ?!)
自分自身に心の中でツッコむ。俺は決して七瀬のことが好きな女子ではない!!!
「着いたー」
そんなことを考えていると、七瀬が横からそう言ってきた。例のファミレスに着いたのだ。
俺たちはいつもの席へと行き、座る。飲み物を注文して、早速本題に入った。
「よし!もらったチョコレートの箱、出してみよ!!」
七瀬がそう言ったので、俺はしぶしぶリュックの中から取り出す。日中は少ないように思えていたチョコレートだったが、今見ると結構多い気がする。
「累!数えてみよ!!」
飲み物も届き、七瀬がそう提案する。俺は頷いて一つ一つ数えていく。数えている時、俺の視線は無意識にチラチラと七瀬に向く。
(やめろー!!!)
俺は心の中で自分自身をビンタする。そして、正気を取り戻し、数える。
七瀬が「終わったー?」と聞いてきて、俺は頷く。そして、七瀬が「せーの!」と言った瞬間、俺は自分のチョコレートの数を言った。
「54個!」
「55個!!」
七瀬の口から出てきた数は、俺の個数より一個多かった。
(くっそ……)
俺が悔やんでいるのがわかったのか、七瀬は俺の方を見た。
「累、あのさ……」
そう言って七瀬が茶色の箱を取り出した。そして、
「累へ、ハッピーバレンタイン」
と言って渡してきたのだ。俺は受け取る。心臓が大きく脈打つ感じがする。
「これでおんなじ数!!」
七瀬がそう言ってケラケラと笑った。俺は七瀬から受け取ったチョコレートを見る。
「ありがとう」
俺がそう言うと、七瀬はにこりと笑った。俺は再度、七瀬から受け取ったチョコレートの箱を見る。七瀬らしいデコレーションもされていた。
(ありがたっ……)
俺は少し泣きそうな気持ちになった。頑張って堪えたけど。

七瀬から受け取ったチョコレートが一番ドキドキするのはなんでだろう?