王子の俺よりも、さらにイケメンな転校生がやってきました

お正月。
冬休み。
お年玉。
こたつ。
三文字のものがたくさんある一月。
一月はお正月という一大イベントがある。お正月はもちろん、こたつでぬくぬくと過ごすのだ。
(七瀬なんかに会うもんか!)
俺は心の中でそう宣言する。しかし、親におつかいを頼まれてしまうのが現状。これでは会う確率がぐんと上がってしまう。
(会いたくねぇ…)
俺は心の中でそう呟きつつもおつかいに行く。

…最悪だ。
「あ!累!」
七瀬に道でバッタリと会ってしまったのだ。俺は別に会いたくもなかった。七瀬はめちゃくちゃ顔を輝かせて近づいてくる。俺はくるりと振り返って全力ダッシュする。
(俺は50メートル走、6秒台だ!)
俺は心の中でそう宣言しつつ、本気で走る。すると、なぜか七瀬の声が横から聞こえてくる。
「ん???」
俺は横を見る。そこには爽やかな顔をしている七瀬がいた。
「累って結構足速いんだね」
七瀬にそう言われて俺はドキッとする。俺の速さについてきているということは、七瀬も相当速いのだろう。俺は急ブレーキをかけて停止する。すると、それを待っていたかのように七瀬も停止した。
「もうすぐお正月じゃん」
七瀬は突然そう言ってきた。俺は驚く。
「ん…あぁ……」
イマイチな反応を返していると、七瀬はねっとりとした笑顔を浮かべる。冬休み前の七瀬となんだか違くて、俺の背筋が凍る。
「クリスマスで撮ったプリクラの写真つけてる??」
七瀬はコロコロと話題を変えてくる。俺は
「まぁ」
またまた微妙な反応をする。
(何か隠してるのか……?)
俺はそう思い、七瀬にこう問いかける。
「七瀬さ、俺に何か隠してる?」
俺がそう聞くと、七瀬は口を固く結んだ。さっきまでの高いテンションが一瞬で消えていった。
「七瀬……?」
俺が七瀬の肩に手を置いた瞬間、七瀬はバッと俺の手を振り払った。七瀬の顔は辛く歪んでいる。
「近づかないで!!」
先程まで自分から近づいていたのに、突然そう叫んだ。七瀬の顔がさらに歪む。
「じゃあ、俺、もう帰るわ」
俺はそう言って、信号を渡る。七瀬は反対側の信号で呆然と立っている。信号が赤になり、車が走り出す。すると、七瀬が
「累!行かないで!!」
と言った。そして、車がたくさん走っている道路に向かって飛び出していった。

七瀬は道路を通った一台の車に引かれてしまった。

「え…七瀬……?」
俺はしばらく時が止まったように動けなかった。しかし、直ぐに状況を理解し、七瀬のもとに駆け寄る。
「七瀬っ七瀬っ?!?!」
俺が必死で揺さぶるが、七瀬は目を覚さない。どこからか、出血もしているらしい。
「君!大丈夫か?!」
車を運転していたおじさんも出てきてそう問いかける。しかし、七瀬の返事はない。
(これ…やばいんじゃ……)
俺はスマホを取り出して、救急車を呼ぶ。幸い、すぐに来れるそうだ。
「七瀬…」
俺は七瀬の手を握る。すると、ほんの微かに動いた感触がある。
「七瀬……?!」
俺がもう一度声をかけると、七瀬は目を少し開いて、
「一緒に来て」
と言った。俺は仕方なく救急車に一緒に乗ることになった。

「結構激しい事故だったらしいけど、擦り傷だって」
そう言われたのは、七瀬の事故から三時間後のことだった。車の方も早くブレーキを踏んでいたらしく、大きな事故にはならなかったらしい。
「…」
俺はなんとも言えない気持ちになる。なぜ、あの時七瀬が俺の名前を叫んでいたのか聞きたくなるが、聞けない。
七瀬の顔がずっと曇っているからだ。真実を話そうか、話さないか迷っているのだろう。ならば、七瀬が話したくなるまで待とうと思う。
「累…いつものファミレスに行かないか……?」
七瀬がオドオドと言ってきた。いつもの輝きがない。俺は断ることもできない。
「あぁ……」
俺は静かに頷いて、七瀬についていく。割とすぐにファミレスが見えてきた。俺は、七瀬が受付をしているのを見て、席につく。
「何か頼む?」
七瀬がそう聞いてきたが、俺は首を横に振る。のんびりとご飯を食べていられるような空気ではないからだ。
「じ…じゃあ……」
七瀬は何かを話しかけたが、すぐに黙った。短い沈黙がこの場に流れる。すると、七瀬は何かを決心したように俺の方を見た。
「累、俺…話さないといけないことがあって……」
そう言われて俺は小さく頷く。俺はその言葉を待っていたから。
「俺、海外に行くかもしれないんだよ……」
苦しそうにそう告げた七瀬に俺の胸も苦しくなる。七瀬が海外に行くということは、もちろん、俺と会うこともできなくなってしまうのだろう。
「あ…」
俺はどんな反応をしたらいいのかわからない。七瀬はずっと顔を歪めているし。
「お、お姉さんはどうするの?」
俺がそう聞くと、
「ねーちゃんはずっとあそこで住むって。連れて行かれるのは俺だけだって…」
そう言われて、俺はさらに胸が苦しくなる。
「……どうにかして止められないのか?」
俺がそう聞くと、七瀬は首を横に振る。
「っじゃあ、言うとおりにするのかよ?!俺は、俺は…寂しいってのに…」
俺がそう言うと、七瀬は、
「仕方ないだろ?!俺に拒否権があるならとっくに拒否してる!!だけど…決まったものは仕方ないんだ!!」
七瀬の怒り具合に俺は驚く。
(そっか……七瀬だって辛いんだろうな……)
俺は考える。どうすれば七瀬を連れていくことを諦めてもらえるか。
「…じゃあ、俺もいくよ」
「え?」
「俺も反対しに行く。お姉さんにも反対しに行く交渉、できないかな」
俺の口が勝手に動く。今までは七瀬は鬱陶しくて嫌いな存在だった。
(だけどもう、俺の中では……)
かけがえのない存在になっていた。初期の俺はあんなに嫌っていたのに。
「七瀬…明日…行こう」
「でも…明日、一日…」
七瀬がそう言う。しかし、俺にそれは関係ない。一日だろうがなんだろうが七瀬の転校を阻止しないといけない。
「いやいい」
俺はそう言って席を立つ。七瀬にお金を渡して俺は帰るのだ。
俺は帰り道、どうやって説得するかをずっと考えていた。

「ちょっと行ってくるわ」
俺はそう言って家を出る。父が
「どこ行くんだ?!」
と叫んでいる気がしたが、俺は無視して外に出る。七瀬との待ち合わせ場所に行く。
「…本当に行くのかよ?」
待ち合わせ場所について最初に言われた一言はそれだった。七瀬の顔には不安の色が滲んでいる。
「ああ」
俺は強く頷く。そのまま七瀬の家に向かう。やはり、七瀬の家はでかい。
(信じられない大きさなんだよな………)
俺は家に入る。すると、七瀬のお父さんらしき人が出てきた。
「何か用ですか?」
俺はそう言われて、すぐに用件を言う。
「七瀬の転校はやめてください」
俺がそう言ってお辞儀する。すると、七瀬のお父さんは唸る。
「無理だ」
キッパリと言われた。
「怜は少し、外の世界を学んだほうがいい。だから転校は絶対だ」
そう言われて俺は、
「今の七瀬は十分に外の世界を学んだいると思います。今の環境だって友達と仲良く話しているし」
俺が負けないようにそう言う。すると、七瀬のお父さんは
「君は、こいつの過去を知らないだろう?」
そう言われて俺の頭の中にはてなのマークが出る。
(七瀬の過去……?)
聞いたこともない話で俺はドキマギする。
「過去は関係ないのでは……?」
俺がそう言うと、七瀬のお父さんは俺をじっと3秒くらい見つめた後で
「ハハハハハ!!」
と大声で笑った。
「え?」
俺が思わずそうつぶやくと、
「これは全て演技だよ。怜が君にどれくらい信頼されているか知りたいと言い出してね。こういうことになったんだ」
「は?」
俺もさすがに呆れる。
「じゃあ、あの事故の話は…?」
俺がそう聞くと、七瀬にお父さんが
「あの時、ひいた車は私の部下。救急隊員にも事情は説明してある。何せ、七瀬グループの社長だからな!」
そう言って七瀬のお父さんはハハハハハと笑う。
(…てことは俺の心配って無駄だった?!)
俺はくるりと振り返って全ての元凶の七瀬を睨みつける。
「お前少し表こいや!!」
俺は七瀬につかみかかる。しかし、七瀬はケラケラと笑っている。
「やっぱ累やっさし!!」
七瀬はそう言って俺に引きずられるのだった。俺は七瀬を引きずりながら自分の体温が上がっていくのを感じる。
(っこの感情消えろ!)
俺は心から強くそう思ったのだった。