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おれとあかりの関係が変わったのは、中学生のときだった。
あかりは自宅療養から入院生活になった。
入院したのは設備が整っている都会の大きな病院ではなく、病床が両手で足りるほどしかない、地元の個人医院だった。おかげでおれは学校帰りに彼女のもとに通うことができたけれど、あとから考えてみれば、もうその時点であかりは自分の命がそう長くないことを悟っていたのかもしれない。
「ねえ、銀ちゃん。あかりがいなくなったら、寂しい?」
ある日、ベッドで読書中だったあかりが、唐突にそう訊いてきたことがあった。
どきっとした。一瞬だけ息が止まって、視線が揺らいだ。
しかし、あかりはそのときこちらを見ておらず、手元の本からじっと目を逸らさなかった。あまりにも雑談のような口調だったから虚をつかれたが、もしかしたら、訊ねたあかりもまた、思うところがあったのかもしれない。
彼女なりの強がりだったのか、あるいはおれの返答に対する緊張か、恐怖か。
でも、それを正しく汲み取ることができるほど、おれは人の心がわかる人間ではなかった。初めて不甲斐ないと思った。こんなに長く一緒にいるのに、まだあかりのすべてを理解できていないなんて。
そのことに気づいてしまったばかりに、おれは、返答に迷ってしまった。
彼女にとっては、そうして生まれた〝間〟がしんどかったのかもしれない。
「ごめん、こんなこと聞いて。やっぱいいや、いまのナシね」
おれが口を開くよりも前に誤魔化すように笑って、そう言った。
「っ、おれは――」
「あのね、銀ちゃん。お願いがあるんだけど……一生に一度の、大事なお願い」
動揺するおれを遮って、あかりはこちらを見つめた。
「あかりの、恋人になってくれない?」
冗談ではない、とすぐにわかった。いつになく真剣で、あまりにも真っ直ぐな眼差しを向けられたら、おれはまた硬直するしかなかった。
あかりのそういう不意打ちに、おれがめっぽう弱いことを、きっと彼女も知っていたのだろう。逃がすまいとする彼女の視線は、おれの奥にある答えなどきっとわかりきっているだろうに、息をする隙すら見せてはくれなかった。
「恋人になったら……なにか、変わるのか」
どれほどの時間が経ったのか、おれはようやく喉奥から声を絞り出した。
あかりはすぐに首を横に振る。
「変わらないよ。銀ちゃんが変わりたくないなら、変わらない。変えなくていい」
「でも、それじゃあ、付き合ってる意味なんて……」
「またそうやって硬いこと言う。まったく、銀ちゃんはほんと鈍感なんだから」
むっと頬を膨らませるあかりの表情は、なんだか怒っているように見えた。
「あかりはね、銀ちゃんが好きなの。銀ちゃんも、あかりのこと好きでしょ?」
「っ……」
「好きだから付き合うの。なにかおかしなことある?」
「……べつに、ない」
「じゃあいいでしょ? あかりに恋を教えてよ、銀ちゃん」
そう口にするあかりに、おれはもう、うなずくことしかできなかった。
恋なんて、おれがいちばんわからないというのに。
――結果的に、関係性は変わった部分も当然あったように思う。
でも、あかり自身は変わらなかった。
よくも、悪くも。
無垢で、透明で、澄んでいて。いつまでも同じ場所にいる。
どんどん汚れていくおれと、知らぬ間に距離ができていく。
そんなふうに思っているなんて、きっとあかりは知らなかっただろう。
けれど、あかりが〝もしも〟の未来を散らつかせるたびに、おれは感じていたのだ。
彼女が本当にこの世界からいなくなるときがきたら、おれはどうなるのだろう、と。



