天国までの記憶列車


 ◇

 ──今日も今日とて、車掌と灯猫は列車で死者を迎え入れる。

 今回は老衰で大往生したご老人だ。人生を全うし終えた者は過去に戻るという説明をしても理解が追い付かず、きょとんとしている場合が多い。

 彼女もまた、目をぱちぱちさせたまま首を傾げるばかりだ。

 「――むかしむかし、事故に遭いそうになったことがあるにゃあね?」

 そんな彼女に、灯猫──クロはゆっくりと話しかける。

 「事故? 事故……ああ、ええ、あるわあ。でも、助けていただいたの」

 「憶えていてよかったにゃあ。そのとき助けた男からの伝言があってにゃ」

 「伝言?」

 「はい。『あんたが目一杯生き抜いてくれたなら、死んだ甲斐がある』と」

 「え……」

 彼女の目に覇気(はき)が戻った。皺に埋まるほど大きく見開かれた瞳に、涙が浮かぶ。

 「そう、そうなの……あの方が、本当に……?」

 「こういうの、本当はだめなんだけどにゃあ」

 クロを横目に、車掌は珍しくふっと苦笑する。あれからずいぶん経ったが、自分だけではなく、クロも彼にはそれなりに思い入れがあったらしい。

 人間かどうかも定かではない相手に、生まれ変わったら友だちになりたい、なんておかしなことを口にした彼は、いまどこにいるのだろう。

 ふと、そう考えるときがある。

 残念ながら〝遺世〟へ進んでいった死者のその後は、知る由もない。それがわかっているからこそ、車掌もクロも深入りしないようにしているのだが──。

 「まあ、気まぐれもたまには悪くないな、と」

 「にゃあ。たまにはにゃあ」

 普段は相容れないかもしれないが、終灯列車で死者を迎える立場の者として共鳴することも稀にある。そんな関係がほんの少し、車掌は好ましいと思っていた。