天国までの記憶列車

 ◇

 すき焼きを食べ終えた俺は、泣き腫らした目をしたまま自分の部屋へと戻った。

 ベッドに倒れこみ、深く息を吐く。

 泣いたのは久しぶりだった。前回がいつなのかも思い出せないくらい、俺は泣くということを忘れていた。虚無に浸る毎日。生きることを、人生を諦めていた。己の感情をさらけ出すことすらできなくなっていたのだと、いまさら気づく。

 「……ほんと俺、なにしに戻って――」

 ごろんと仰向けになり、携帯の画面をつけた俺は固まった。

 サッカー部メンバーが入っているグループチャットに、一件の通知がきていた。そういえば先ほど、携帯がなにかの通知で震えていたのを思い出す。

 だが、メッセージではない。システム通知だ。チャット欄を開いた俺は、その文字列を目で追った瞬間、勢いよく飛び起きる。

 ――三上浩介がグループチャットから退会しました。

 「っ、はぁ……!?」

 瞬時に理解ができなかった。

 浩介がグループチャットを退会する意味がわからない。

 それも、スタメンが発表されたこのタイミングだ。なにか重要な連絡事項が入るかもしれない。こんなことをすれば、確実に監督やキャプテンの怒りを買うだろう。

 困惑して数秒ほど画面を凝視したあと、俺は浩介に電話を掛けた。

 出ない。もう一度。出ない。さらに二回ほど繰り返して、俺はまたも盛大に苛立ちながら、浩介との個人チャットに素早くメッセージを打ちこんだ。

 『なに考えてるんだよ』

 『いま抜けるとか、絶対に監督に怒られるぞ』

 『俺のこと気にしてとかなら――』

 三行目を打っている途中で既読マークがついた。手が止まる。

 数秒後、『おつ』の後に亀の絵文字が付いたメッセージが送られてきた。これはもしや『おつカメ』とでも言いたいのだろうか。ぴき、とこめかみに力が入る。

 『ふざけんなよ、おまえ』

 『ふざけてないって』

 これのどこがふざけていないというのだろう。苛立ちは最高潮に達し、携帯を思い切り布団に叩きつけたくなった。ピコン、と新しい通知が入る。

 『なー、渉。いまってヒマ?』

 『ヒマならさ、ちょっと出てこれねーかな? おれいま、学校近くの(こう)()公園にいるんだけど』

 ――甲羅公園。

 高校から歩いて五分ほどのところにある公園のことだ。亀の甲羅をモチーフにしたドーム型遊具がひとつ置いてあるだけの、もの寂しい公園だった記憶がある。

 「なんでそんなとこに……つか、だから亀なのか?」

 安直だな、と思いながら、横目で机の置き時計を見る。

 時刻は二十時半を回ったところだった。いまから外出するには少々(はばか)られる時間だが、このまま放っておくわけにもいかない。俺には時間がないのだ。

 『帰るなよ』

 そうひとことだけ送って、重い腰をどうにか(しっ)()し、俺は立ち上がる。乱暴に放り投げていた上ジャージに腕を通し、携帯をポケットに突っこんだ。

 玄関ドアに手を掛けたところで、携帯がブーと振動した。先ほどはスルーしてしまったが、今回ばかりはすぐに取り出し、急いで画面を確認する。

 『サッカーしようぜ』

 浩介からだった。