天国までの記憶列車

 


 「ただいまぁ……って、なんだ。仲よくしてんじゃん」

 帰宅してそのままリビングに入ってきた真は、そろって焼肉の準備をする僕と郁絵を見て、拍子抜けしたように片眉を上げた。

 ちらり、と僕に視線を送ってきたので、うなずいて返す。

 「あぁ、おかえり、真」

 「お、おかえり、真。連絡くれてありがとね」

 「べつに……今日はなんもなかったから帰ってきただけだし」

 荷物をソファに放り投げながら、真はぶっきらぼうに答える。

 「あっ、真。ちゃんと手洗ってらっしゃい」

 「うっさいなあ……。子どもじゃないんだから、そんくらいわかってるよ」

 こうして改めて見ると、やはり真は僕よりも郁絵似だった。

 変なところで強がる性格も、郁絵から引き継いだものだろう。ぶつぶつと文句を垂れながらも、言われた通りキッチンで手を洗う姿に苦笑してしまう。

 郁絵は心配しているが、やはり真は大丈夫だろうと思える。

 僕たちが思っているよりもしっかりしているし、きっともう、ひとりで生きていく道筋を定められるくらい、真は自己を確立している。

 それがわかっただけで、父親としては十分、安心できるというものだ。

 「さて、真も帰ってきたし、さっそく食べようか。ワインも一緒に」

 「え、ワイン? 赤? なにそれ、おれも飲みたいんだけど」

 「真……っ! あなた、お酒飲めるの!?」

 「だからぁ、おれもう二十歳だって。言っとくけど、酒めっちゃ強いよ」

 「あらやだ、じゃあ今度一緒に飲みに行きましょうよ! いいお店たくさん知ってるから! 昔、お父さんと発掘したお店があってね――」

 真と郁絵の会話を穏やかな心地で聴きながら、僕はグラスにワインを注いだ。

 ふたりが席につき、僕も定位置に座る。

 それぞれワイングラスを片手に持ち、誰からともなく持ち上げた。

 「うーん。初めて息子と酒を交わす記念日、でいいか」

 「なにそれ、心底どうでもいいんだけど」

 「いいじゃない。ちゃんと記念日よ」

 久しぶりに家族で囲む食卓だ。穏やかで、心が温かい。最期の夜にはあまりにも恵まれすぎているような気もする。

 後悔がなくなったわけでも、これまでの自分を取り消せるわけでもない。ふたりを残して死ぬ事実は変わらない。この先の僕がいなくなった未来、ふたりがどう過ごしていくのか、どう生きていくのか、心配にならないはずもない。

 それでも、いまだけは――。

 最期の夜だけは、この幸せに浸っていたいと、そう願うのだ。

 「じゃあ、みんなで」

 「「「――乾杯」」」