天国までの記憶列車


 ◇

 夕刻、自宅へ帰ると、郁絵は留守にしていた。どうやら出かけているらしい。

 しん、と静まり返った家に、なんともいえない哀感が襲う。普段この時間に帰宅することはないため、(しゃ)(よう)に照らされるリビングはどこか新鮮でもあった。

 「……こんなに静かなところにずっとひとりでいたら、寂しくもなるな」

 ダイニングの椅子に鞄を置き、二階の自室へ上がる。スーツを脱いで部屋着に着替えながらふとベランダを見ると、まだ洗濯物を干したままだった。

 一瞬迷ったものの、外へ出て、四苦八苦しながらも取りこんでおく。あとからよけいなことだと目くじらを立てられても、まあ、それはそれでいい。

 憶えている限りの畳み方で洗濯物を畳んでいると、玄関の扉が開く音がした。

 郁絵が帰ってきたのだろう。

 すぐに、ばたばたと階段を上がってくる音が響いた。郁絵は洗濯物を畳んでいる僕を見るや否や、ぎょっと目をむいて部屋に駆けこんでくる。

 「え、なんで? どうしたの?」

 「おかえり。今日は早く帰ってきたんだ。洗濯物、いちおう畳んではみたんだが、やり方が……。いろいろまちがっていたらすまない」

 「それはべつに、全然、いいけど……。ありがとう」

 困惑を隠せない様子で答えながら、郁絵は畳まれたものを拾い上げる。

 「早く帰るなら言ってくれればよかったのに。買い物に出ちゃったじゃない」

 「何時になるかわからなかったから」

 「親子そろって(ほう)(れん)(そう)がなってないわね……。だから真も――」

 「郁絵。少し話したいことがあるんだが、いいかな」

 「え、なに、こわい」

 「それこそ真のことだよ」

 郁絵の顔にさっと不安が浮かんだ。

 左右に揺れた瞳が、どこか縋るように僕を見つめる。思い詰めた表情からは、どれだけ郁絵が真を案じているかが伝わってきて、僕もまた胸が痛くなった。