魚崎に絆創膏を貼ってもらった太陽は、満足そうに指先でその感触を確かめると、僕達の顔を一人ずつ見た。
「それよりさ、みんな頑張ってんだね。水輝の画集も買ったし、隼人の新作も読んだよ。」
その言葉に、僕の心臓が小さく跳ねた。僕らは彼の行方を必死に追いかけていた。けれど、彼は僕らを探す必要すらない場所にいたのだ。
「レオは英会話講師のバイトで、大輔は教師目指してるんだっけ?」
「そうだよ、大学から頑張ってんだ。」
レオが頷くと、魚崎も少し複雑な表情で応じた。
「夢のために勉強頑張ってるよ。」
太陽の視線が最後に遥斗へ向いた。
「遥斗も、おしゃれな大学生やってんね。...なんだか、出会ったばかりのときの雰囲気に似てるよ」
遥斗の喉が微かに鳴った。
出会ったばかりの時期、おそらく二年生の前半のこと。それは、遥斗がまだ、派手に遊び歩いていた頃の姿だ。太陽は自分たちが変わってしまったことも、あるいは戻ってしまったことも、すべてお見通しだと言わんばかりだ。
「知ってたなら、会いに来てよ」
水輝が、震える声を押し殺すように言った。
「僕だって、サイン会も個展もやってた。君が来るのを、ずっと、待っていたのに。」
水輝の瞳が、琥珀色の照明を反射して揺れている。その言葉に含まれた重すぎるほどの期待と、裏切られたような孤独があった。それを突きつけられてもなお、太陽の微笑みは揺らがなかった。
「ごめんね、機会があれば必ず行くよ」
太陽はそう言うと、水輝の柔らかい髪をそっと撫でた。
「太陽はさ、本当は何してたの?...教えてほしい」
遥斗の問いは、祈りに近かった。だが、太陽は困ったような、それでいて突き放すような笑みを浮かべた。
「だから、色々やってんの。そのままの意味だよ」
その言葉の真意を、誰も理解できていなかったと思う。日雇いの仕事を転々としているのか。いくつものバイトを掛け持ちしているのか。それとも先程の喧嘩も仕事の一部で、危険な仕事に身を投じていることの比喩なのか。
推測すればするほど、太陽という存在がわからなくなってきた。
「別にさ、お金には困ってないから安心してよ。現に、隼人の本も水輝の画集も買ってるわけだし。」
「そういうことじゃないんだよ、太陽。」
水輝の声が震えていた。
「お金があるとかないとか、そんな報告が聞きたいんじゃないの。僕らが知りたいのは…」
「じゃあ、何を話せばいい?」
太陽が言葉を遮った。高校の頃には、一度も聞いたことのなかった苛立ったような声。
「住所も言えない、職業も言えない。あした、自分がどこにいるかもわからない。…そんな俺の今の話を正直に話して、みんなはどう思う?納得してくれる?安心してくれる?」
太陽の真っ直ぐな視線が、僕ら一人ひとりを射抜く。
「そんな重苦しい話をするよりもさ、俺はみんなと、あの頃みたいに笑って、思い出話がしたいんだよ。それじゃ、だめかな」
その言葉は彼なりの優しさだったのかもしれない。自分の世界に、僕らを巻き込みたくないという拒絶。
けれど、僕らがほしかったのは、きれいな思い出話なんかじゃなかった。
たとえ泥に塗れ、血を流していても、本当の彼に触れたかったのだ。
「それよりさ、みんな頑張ってんだね。水輝の画集も買ったし、隼人の新作も読んだよ。」
その言葉に、僕の心臓が小さく跳ねた。僕らは彼の行方を必死に追いかけていた。けれど、彼は僕らを探す必要すらない場所にいたのだ。
「レオは英会話講師のバイトで、大輔は教師目指してるんだっけ?」
「そうだよ、大学から頑張ってんだ。」
レオが頷くと、魚崎も少し複雑な表情で応じた。
「夢のために勉強頑張ってるよ。」
太陽の視線が最後に遥斗へ向いた。
「遥斗も、おしゃれな大学生やってんね。...なんだか、出会ったばかりのときの雰囲気に似てるよ」
遥斗の喉が微かに鳴った。
出会ったばかりの時期、おそらく二年生の前半のこと。それは、遥斗がまだ、派手に遊び歩いていた頃の姿だ。太陽は自分たちが変わってしまったことも、あるいは戻ってしまったことも、すべてお見通しだと言わんばかりだ。
「知ってたなら、会いに来てよ」
水輝が、震える声を押し殺すように言った。
「僕だって、サイン会も個展もやってた。君が来るのを、ずっと、待っていたのに。」
水輝の瞳が、琥珀色の照明を反射して揺れている。その言葉に含まれた重すぎるほどの期待と、裏切られたような孤独があった。それを突きつけられてもなお、太陽の微笑みは揺らがなかった。
「ごめんね、機会があれば必ず行くよ」
太陽はそう言うと、水輝の柔らかい髪をそっと撫でた。
「太陽はさ、本当は何してたの?...教えてほしい」
遥斗の問いは、祈りに近かった。だが、太陽は困ったような、それでいて突き放すような笑みを浮かべた。
「だから、色々やってんの。そのままの意味だよ」
その言葉の真意を、誰も理解できていなかったと思う。日雇いの仕事を転々としているのか。いくつものバイトを掛け持ちしているのか。それとも先程の喧嘩も仕事の一部で、危険な仕事に身を投じていることの比喩なのか。
推測すればするほど、太陽という存在がわからなくなってきた。
「別にさ、お金には困ってないから安心してよ。現に、隼人の本も水輝の画集も買ってるわけだし。」
「そういうことじゃないんだよ、太陽。」
水輝の声が震えていた。
「お金があるとかないとか、そんな報告が聞きたいんじゃないの。僕らが知りたいのは…」
「じゃあ、何を話せばいい?」
太陽が言葉を遮った。高校の頃には、一度も聞いたことのなかった苛立ったような声。
「住所も言えない、職業も言えない。あした、自分がどこにいるかもわからない。…そんな俺の今の話を正直に話して、みんなはどう思う?納得してくれる?安心してくれる?」
太陽の真っ直ぐな視線が、僕ら一人ひとりを射抜く。
「そんな重苦しい話をするよりもさ、俺はみんなと、あの頃みたいに笑って、思い出話がしたいんだよ。それじゃ、だめかな」
その言葉は彼なりの優しさだったのかもしれない。自分の世界に、僕らを巻き込みたくないという拒絶。
けれど、僕らがほしかったのは、きれいな思い出話なんかじゃなかった。
たとえ泥に塗れ、血を流していても、本当の彼に触れたかったのだ。
