重厚な木製のドアを開けると、カウベルが静かに鳴った。
時刻は深夜一時。20時から朝の6時まで営業しているというこのバーは、平日ということもあってか、水輝の言った通り僕ら以外に客はいなかった。琥珀色の照明に照らされた店内には、僕ら五人と、カウンターの奥に佇むマスターだけがいた。
「いい雰囲気だね、ここ。....すみません、おしぼりもらえたりしますか?」
太陽が事も無げにカウンターに座り、声をかける。彼の額と鼻からは未だに血が滲んでいるというのに。
「あらやだ、あなた怪我してるじゃない。はい、これ絆創膏とおしぼり。」
カウンターから出てきたのは、華やかなスカーフをしたオネェ系のマスターだった。彼は驚きもせず、むしろ手慣れた様子で、おしぼりと一緒に救急箱から絆創膏を差し出した。
「わ、ありがとうございます...あー、おしぼりで血を拭いてもいいですか」
「使い捨てだから気にせず使ってちょうだい。血がついてちゃ、男前が台無しよ」
「助かります。」
太陽は、白い布が真っ赤に染まるのも厭わず、顔の汚れを拭き取っていく。その仕草は、まるで泥の遊びをしてきた子供のように無邪気で、先程の殺気はどこにもなかった。
「いやー、まさかあんなところで会うとは思わなかったよ。....今日は何かあったの?」
顔を拭き終えた太陽が、不思議そうに僕らを見上げた。
「同窓会だよ」
レオが少しすねたような口調で返す。
「あ、そっか成人式だったのか」
忘れていた、と言わんばかりの軽い反応。僕らがこの二年間、どれだけ彼の名前を口にし、その不在を埋めようといしてきたか、彼は知らないのだろう。
「…二年間、何してたの」
堪えきれなくなったように、遥斗が身を乗り出して聞いた。
「んー?色々と」
「色々って…!」
「俺のことはどうだっていいんだよ」
太陽は、さらりと質問をかわした。その笑顔は完璧だったが、立ち入らせない壁のような拒絶も感じられた。
「血だらけのくせに」
僕がボソリと呟くと、水輝がすぐに同意した。
「本当だよ、まずは自分の惨状を見たほうがいいんじゃないの」
再会の劇的な興奮は、彼のあまりのマイペースに削り取られ、僕らの中には一周回って変な冷静さまで生まれていた。
「てか、何してんの?」
遥斗が呆れた声を出す。太陽は、マスターからもらった絆創膏を手に持ち、額の近くで彷徨わせていた。
「いやー、うまく貼れなくて。誰か鏡持ってたりする?」
額の傷を指さし、太陽が困ったように笑う。
「仕方ないな。ほら、貸せ、貼ってやるよ」
見るに見かねて魚崎が立ち上がった。
「ありがと、大輔。」
魚崎の手が、慎重に太陽の額に絆創膏を当てた。
時刻は深夜一時。20時から朝の6時まで営業しているというこのバーは、平日ということもあってか、水輝の言った通り僕ら以外に客はいなかった。琥珀色の照明に照らされた店内には、僕ら五人と、カウンターの奥に佇むマスターだけがいた。
「いい雰囲気だね、ここ。....すみません、おしぼりもらえたりしますか?」
太陽が事も無げにカウンターに座り、声をかける。彼の額と鼻からは未だに血が滲んでいるというのに。
「あらやだ、あなた怪我してるじゃない。はい、これ絆創膏とおしぼり。」
カウンターから出てきたのは、華やかなスカーフをしたオネェ系のマスターだった。彼は驚きもせず、むしろ手慣れた様子で、おしぼりと一緒に救急箱から絆創膏を差し出した。
「わ、ありがとうございます...あー、おしぼりで血を拭いてもいいですか」
「使い捨てだから気にせず使ってちょうだい。血がついてちゃ、男前が台無しよ」
「助かります。」
太陽は、白い布が真っ赤に染まるのも厭わず、顔の汚れを拭き取っていく。その仕草は、まるで泥の遊びをしてきた子供のように無邪気で、先程の殺気はどこにもなかった。
「いやー、まさかあんなところで会うとは思わなかったよ。....今日は何かあったの?」
顔を拭き終えた太陽が、不思議そうに僕らを見上げた。
「同窓会だよ」
レオが少しすねたような口調で返す。
「あ、そっか成人式だったのか」
忘れていた、と言わんばかりの軽い反応。僕らがこの二年間、どれだけ彼の名前を口にし、その不在を埋めようといしてきたか、彼は知らないのだろう。
「…二年間、何してたの」
堪えきれなくなったように、遥斗が身を乗り出して聞いた。
「んー?色々と」
「色々って…!」
「俺のことはどうだっていいんだよ」
太陽は、さらりと質問をかわした。その笑顔は完璧だったが、立ち入らせない壁のような拒絶も感じられた。
「血だらけのくせに」
僕がボソリと呟くと、水輝がすぐに同意した。
「本当だよ、まずは自分の惨状を見たほうがいいんじゃないの」
再会の劇的な興奮は、彼のあまりのマイペースに削り取られ、僕らの中には一周回って変な冷静さまで生まれていた。
「てか、何してんの?」
遥斗が呆れた声を出す。太陽は、マスターからもらった絆創膏を手に持ち、額の近くで彷徨わせていた。
「いやー、うまく貼れなくて。誰か鏡持ってたりする?」
額の傷を指さし、太陽が困ったように笑う。
「仕方ないな。ほら、貸せ、貼ってやるよ」
見るに見かねて魚崎が立ち上がった。
「ありがと、大輔。」
魚崎の手が、慎重に太陽の額に絆創膏を当てた。
