ハロー、親愛なる太陽

鼻血を流し、口の端も切れ、額からも血を流す太陽。
 無表情に地面を見つめていた彼の口角が、不意につり上がった。
 
「で、これで正当防衛になるよな」

 低く地を這うような声。次の瞬間、太陽を囲んでいたはずの男たちが、次々とうめき声を上げて倒れていく。一体何が起きたのか、僕の悪い視力では捉えきれなかった。ただ、太陽が立ち上がったときには、彼を殴っていた連中が雪の上で無様にのたうち回っていた。
太陽は返り血のついた手を見つめていた。

「太陽!」

遥斗の叫び声に、太陽の視線がこちらへ向く。鋭く、獣のような瞳。僕らまで殺されるのではないかと思うほどの殺気に背筋が凍りついた。

「あ?」

 こちらを認識した瞬間、太陽の瞳から険しさが抜け、かつての笑みが戻ってきた。

「おぉ!久しぶり!ごめんな、こんな汚れてて。」

「どけよ」と言いながら足元の男の背中を踏みつけ、太陽は何事もなかったかのように歩み寄ってくる。
みんなが何を言えばいいかわからず沈黙していた。

「....とりあえず、飲み行く?」

 沈黙を破ったのは、レオだった。あまりに突飛な誘いだった。

「カラオケ...は、まずいか。お前、血だらけだし。」

 魚崎が呆れたように、けれど少しだけ安堵したように笑った。あの頃とは違った姿でも、目の前にいるのは、たしかに自分たちが追いかけ続けた太陽なのだ。

「じゃあ、遥斗の行きつけのバーに行こう。あそこのマスターなら融通がきくし、この時間なら人もいないはずだよ」

 水輝が冷静に提案する。
 降る雪は、太陽が散らした血を白く塗りつぶそうとしていた。

 空白の二年間は、僕らが思っていたよりもずっと深く、彼を塗り替えていたらしい。