卒業式の朝、僕らの中心にいたはずの席は、最初から空席だったかのように整然としていた
女遊びの激しい彼は言う。
「あいつは、俺の空っぽを笑わなかった」
画家の息子は言う。
「彼は、誰にも染まらない色をしていた」
小説家は言う。
「あの人は、僕の物語をに意味をくれた」
教師を目指す彼は言う。
「あの子は、誰よりも人を見ていた」
帰国子女の彼は言う。
「その人は、俺をよそ者にしなかった」
誰もが、自分だけの「太陽」を定義する。救い、理解者、愛、光、あるいは守るべき対象。
けれど。
中心にいた太陽は僕らをどう思っただろか。
僕達に、どんな言葉を残しただろうか。
太陽は言う。
「 」
記憶の中の彼は、いつも笑っている。
けれど、その唇が形作る最後の言葉だけが、どうしても思い出せない。
僕らは二十歳になった。
成人式の式典を終え、駅前の大きな居酒屋は二十歳の熱気で溢れかえっていた。貸し切られたフロアもあちこちで、ジョッキの触れ合う音と、二年前よりも少し大人びたスーツ姿の同級生たちの声が交差する。
「遥斗」「遥斗くん、幹事ありがとね」
「久しぶり、みんな相変わらずだね」
居酒屋の入口で受付を回していた、端田遥斗だ。
僕の記憶では二年生の前半まで、彼は「女遊びの激しい男」として有名だった。二年の後半、太陽とつるみ始めてからは憑き物が落ちたように落ち着いていたはずg,
今は、またもとに戻ってしまったんだろうか。
女子の肩に馴れ馴れしく手を置く彼の笑顔は、どこか空虚に見えた。
「水輝じゃん、変わらないな」「次の個展いつなの」
「そろそろ、開きたいと思ってるよ」
少し離れた場所で、場違いなほど静かな空気をまとっているのは栄川水輝だ。
父が著名な画家で自身も「若き天才」としてメディアに取り沙汰されることも多い。高校の頃、その美しさと家柄ゆえに「貴公子」だの「女みたい」だのと揶揄されていた。
「お。内薗だ」「小説読んだよ、すごかったな」
「ほんと?ありがとう」
そして僕、内薗隼人。
高校三年の頃、太陽に背中を押されて新人賞に応募した。今はそこそこ名のしれた小説家という肩書を得たけれど、心の何処かではまだ納得の行く物語がかけないでいる。
「お、レオじゃん」「久しぶり」
「やっほー、みんな元気してた?」
居酒屋の雰囲気を更に明るくしたのは、阿多レオだった。3年生の頃に転校してきた帰国子女だ。父がアメリカ、母が日本人のハーフで、日本語は完璧だが迷いのないスキンシップの多さはやはりこの国のリズムとはどこか違う。英会話講師のバイトをしているという彼は、誰にでも平等な光を振りまく。
「お、魚崎だ」「魚崎先生!」
「久しぶり、先生とか呼ぶなよ。まだ卵なんだから」
照れくさそうに笑うのは、教員を目指している魚崎大輔だ。真面目で、頭も良くて、けれど堅苦しくない。クラスの父親みたいな存在だった。あの頃と一番変わらないのはおそらく彼だろう。彼が先生になったら、きっと生徒たちの孤独に寄り添うんだろう、そう思わせる安心感がある。
クラスのみんなが揃った。
予約されたテーブルには、あとひとつ、席が余っている。
女遊びの激しい彼は言う。
「あいつは、俺の空っぽを笑わなかった」
画家の息子は言う。
「彼は、誰にも染まらない色をしていた」
小説家は言う。
「あの人は、僕の物語をに意味をくれた」
教師を目指す彼は言う。
「あの子は、誰よりも人を見ていた」
帰国子女の彼は言う。
「その人は、俺をよそ者にしなかった」
誰もが、自分だけの「太陽」を定義する。救い、理解者、愛、光、あるいは守るべき対象。
けれど。
中心にいた太陽は僕らをどう思っただろか。
僕達に、どんな言葉を残しただろうか。
太陽は言う。
「 」
記憶の中の彼は、いつも笑っている。
けれど、その唇が形作る最後の言葉だけが、どうしても思い出せない。
僕らは二十歳になった。
成人式の式典を終え、駅前の大きな居酒屋は二十歳の熱気で溢れかえっていた。貸し切られたフロアもあちこちで、ジョッキの触れ合う音と、二年前よりも少し大人びたスーツ姿の同級生たちの声が交差する。
「遥斗」「遥斗くん、幹事ありがとね」
「久しぶり、みんな相変わらずだね」
居酒屋の入口で受付を回していた、端田遥斗だ。
僕の記憶では二年生の前半まで、彼は「女遊びの激しい男」として有名だった。二年の後半、太陽とつるみ始めてからは憑き物が落ちたように落ち着いていたはずg,
今は、またもとに戻ってしまったんだろうか。
女子の肩に馴れ馴れしく手を置く彼の笑顔は、どこか空虚に見えた。
「水輝じゃん、変わらないな」「次の個展いつなの」
「そろそろ、開きたいと思ってるよ」
少し離れた場所で、場違いなほど静かな空気をまとっているのは栄川水輝だ。
父が著名な画家で自身も「若き天才」としてメディアに取り沙汰されることも多い。高校の頃、その美しさと家柄ゆえに「貴公子」だの「女みたい」だのと揶揄されていた。
「お。内薗だ」「小説読んだよ、すごかったな」
「ほんと?ありがとう」
そして僕、内薗隼人。
高校三年の頃、太陽に背中を押されて新人賞に応募した。今はそこそこ名のしれた小説家という肩書を得たけれど、心の何処かではまだ納得の行く物語がかけないでいる。
「お、レオじゃん」「久しぶり」
「やっほー、みんな元気してた?」
居酒屋の雰囲気を更に明るくしたのは、阿多レオだった。3年生の頃に転校してきた帰国子女だ。父がアメリカ、母が日本人のハーフで、日本語は完璧だが迷いのないスキンシップの多さはやはりこの国のリズムとはどこか違う。英会話講師のバイトをしているという彼は、誰にでも平等な光を振りまく。
「お、魚崎だ」「魚崎先生!」
「久しぶり、先生とか呼ぶなよ。まだ卵なんだから」
照れくさそうに笑うのは、教員を目指している魚崎大輔だ。真面目で、頭も良くて、けれど堅苦しくない。クラスの父親みたいな存在だった。あの頃と一番変わらないのはおそらく彼だろう。彼が先生になったら、きっと生徒たちの孤独に寄り添うんだろう、そう思わせる安心感がある。
クラスのみんなが揃った。
予約されたテーブルには、あとひとつ、席が余っている。
