透明な時間

朝、教室に入った瞬間、いつもと同じはずの空気が、少しだけ違っていた。

みんなでスマホを覗き込み、誰かが小声で何かを言って、それが連鎖していく。

「昨日の、見た?」
「もう拡散されまくってるらしいよ。」
「別の学校のやつも広めてるって。」

僕はだいたい察しがついた。
"あれ"が外に出たんだ。

友達の佐々木悠真に呼ばれて前に座った。
悠真のスマホで、切り取られた数十秒の動画が再生されていた。

数人で一人の生徒を囲み、暴力を振るっている。
紛れもなく、僕の今いる教室の映像だった。

「最低。」
「学校側も終わってる。」
「周りのやつらなんで止めないの?」

画面の向こうでは、ものすごい勢いで正義が振りかざされていた。

でも、その動画の中に、僕の顔は映っていない。
だから大丈夫だ。
そう思おうとした自分がいて、その考えに我ながら嫌気が差した。

紬は、今日も静かだった。
昨日と何も変わらないように見えた。

主犯とも言えるであろう黒崎陸やその周辺もいつも通りで、
先生方も、特に何も言わなかった。

学校の中と、画面の向こう。
同じ出来事が起こっているのに、
まるで別世界のようだった。