翌日はよく晴れて、いつも薄暗い森の中にも、日差しが差し込んでいた。現れた蜘蛛様の白髪は、雨上がりの蜘蛛の糸のように輝いているように見えた。
「先に履き替えろ」
足元に置かれたのは、足首まで丈のある丈夫そうな草靴だった。
「ありがとうございます」
「あとこれだ。持っておけ」
履き替えて次に渡されたのは、中でちゃぷちゃぷと音のする瓢箪だった。暑くなり始めの今頃にはとても嬉しくありがたい、けれど面倒見の良さがくすぐったく、少し居心地悪い。瓢箪のくびれに巻きつけられた蔦を肩にかけながら、昨日の様子を思い出す。
「もしかして、昨日社務所の中を見て回っていたのは、私の用意を見るためだったのですか。ご指示いただければ、自分で用意したのに」
肯定も否定もせず、蜘蛛様は淡々と確認する。
「徒歩か運ばれるか、どちらがいい」
「出来るだけ徒歩がいいです」
人の踏み入らない山を行くのは大変だろうが、運ばれるのはいくら何でも情けない。
しかし、一体どこまで行くのか、不安でもある。山の上の方を眺め渡し、最後にすぐそばにある祠で目をとめた。
「この祠は、やはり、弔いのためにあるのですか」
衣織が埋められた穴も神社も見下ろすような位置に、草木に紛れてひっそりと佇んでいる。風雨で削れて丸みを帯びた形。衣織が掃除をしたので、全体を覆っていた苔はなくなっている。
「これは小狸沢が建てたものだ。その意図については直接は聞いておらん」
「小狸沢。村に同じ地名がありますが」
「同胞とは呼べぬが、交易などで己らと交流があった者共の呼び名だ。彼らは早くに恭順したから、滅ぼされずに済んだらしい」
「あぁ……」
小狸沢は川下にある地域の名だ。洗濯をしに行く人や川遊びに行く子どもをたまに見かけるくらいで、特別な場所だと思ったことはない。けれど、名前が同じということは、無関係ではないだろう。
抵抗か恭順か。選んだ道は違っても、隣人たちの死を悼む人々が、かつていたのだ。きっとこの祠を建てるのにも危険が伴っただろうに。
手を合わせて祈る。
「行くぞ」
「はい」
人の手の入らない森を、人の理から外された者の背中を追いかけて歩く。奇妙な巡り合わせだと、今更ながら思った。

