蜘蛛網に白羽の矢【木土19時更新】

 衣織がいた時と、村は変わらない様子だった。問題が起きてもいなければ、解決もしていない。作物は病に侵され、夏だと言うのに見るからに例年よりもずっと量が少なく、出来も悪い。草むしりをする同僚たちも、明らかに痩せていた。
 衣織が生贄の候補になっていると教えてくれた凛代(りよ)も、最後に見た時より頬がこけて、疲労が顔に影を落としていた。爪も割れて、指に血が滲んでいる。
 申し訳なさはある。決して消えないだろう。けれど、目を瞑れば、土の中にいる時の恐怖、蜘蛛様への感謝が胸によみがえる。

「凛代さん。声を上げずに聞いて」

 隠れ蓑をまとった衣織の姿はやはり見えないようで、周囲を不思議そうに見回した後、気のせいだと思ったのか、再び草むしりに戻る。
 驚かせたくはなかったけれど、計画に沿って行くのなら、驚かせた方がたぶんいい。迷いながら呼びかけた。

「凛代さん。凛代さん。――生贄になった衣織が、神様からのお言葉を伝えに、戻ったよ。旦那様と奥様に会いたいの。お願い、協力して」

 凛代の顔がみるみるうちに青ざめていく。
 これでもう、後戻りはできない。