「あたし、歌い手になって
伝説の剣を手に入れたいの!!」
クラスメイトの奇抜な発言に僕は
上の空で頷いた。
「いいねぇ〜」
「いいねぇ〜……って! ちょっと天馬!!
話聞いてる?!!」
「ちゃんと聞いてるよ……」
「嘘!ボーッとしてたじゃない!」
……あぁ、どうして
こうなってしまったのだろうか……。
僕はただ忘れ物を取りに来ただけなのに……。
突然彼女が泣きながら僕に声を掛けてきたのだ。
さすがにこの状態の彼女を1人にするわけにも
いかず、話を聞いているが、まったく話の先が
見えてこない。
さっきから「歌い手になって伝説の剣を手に入れる」
としか言わないbotと化している。
「でもなんで伝説の剣が欲しいの?」
仕方なくそう尋ねると彼女……香野さんはピタっと
動きを止めた。
あれ?なんか地雷踏んだ?
「……家族を見返してやりたいのよ。
パパもママもあたしのことなんて興味がない。
妹の方が大事なの」
ギリッと歯を食いしばる香野さんの瞳は
悲しみの色を孕んでいて僕は何も言えなかった。
「……だから!
あたしの好きな歌で
伝説の剣って呼ばれるエクスカリバー賞を
取って見返してやりたいのよ!!」
「あぁ、伝説の剣ってそういう……。」
香野さんは前向きなんだな。
家族に蔑ろにされても絶望しない。
「僕とは大違いだ」
小さな呟きは香野さんには届かなかったらしい。
綺麗な歌声が聞こえてきて振り向くと
香野さんは夕日に照らされながら胸に手を当て
抑揚のある旋律を楽しそうに歌っていた。
まるで、蝶が舞っているかのように。
「これ、今作った歌。
タイトルは『金木犀』」
「金木犀?」
「そう。天馬、金木犀の香りがするから」
金木犀色の光を浴びる香野さんが
ぼくにはただひたすら眩しく見えた。



