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学園を包んでいた蝉時雨は、夜の帳と共に静まり返り、代わりに涼やかな夜風がテラスを吹き抜けていく。
やり直しの創立記念祭が終わった夜。生徒会執務室のテラスには、二人の影があった。
下界の喧騒は遠く、見上げる夜空には、魔導の灯火さえ届かないほど鮮やかな満天の星が広がっている。
「……セオドリック」
手摺りに寄りかかったレイモンドが、夜空を見上げたまま、静かに口を開いた。
その右指には、セオドリックとの繋がりを示す指輪が、星光を反射して冷たく、しかし確かに熱を持って輝いている。
「一つ、聞いてもいいか。……お前は、どうしてそこまで俺に構う」
それは、セオドリックに出会って以来、ずっと胸に秘めていた問いだった。
自分は没落した家の末子で、根が暗く、愛想も悪い。ただ実務がこなせるだけの影に過ぎない。世の中にはもっと有能な、あるいはもっと光り輝く者がいくらでもいるはずなのに。
「……あの日も、今日もそうだ。お前は俺のために、自分の立場を危うくし、命さえ投げ出そうとする。……そこまでされる価値が、俺にあるとは思えないんだ」
セオドリックは隣に並び、レイモンドが見上げているのと同じ星空を見つめた。
「価値、か。……君はいつも、自分を数式のように計ろうとするね、レイモンド」
セオドリックの脳裏には、かつて二人で過ごした、静かな雨の日の記憶が浮かんでいた。
外の世界では公爵家嫡男として、完璧な光を演じなければならない自分。誰もがその光を崇め、あるいは畏怖して遠巻きにする中で、隣にいるこの男だけは、容赦なく自分の欠点を突き、呆れたように溜息をついてくれた。
「誰もが僕を『光』として、あるいは『力』として見る。けれど、君だけは僕を……ただの、扱いにくい一人の人間として扱ってくれた。君のその不敬な言葉や、皮肉な微笑みを聞くたびに、僕は自分が……一人の人間として、ここに存在していいのだと、呼吸を許されたような気持ちになれるんだ」
