セオドリックの冷たい指先が、レイモンドの首筋に触れた。そこから指輪を通じて、執着を帯びた魔力が流れ込んでくる。
「公爵位を拒むなら、もう、逃げ道は用意しない。……これを見るがいい」
セオドリックがもう一枚、机の上に叩きつけたのは、先ほどの書状とは毛色の違う『官職任命書』だった。
「『宮廷魔導技術卿』……兼、皇帝守護騎士補佐官? ……おい、これは何だ。業務内容が……お前のスケジュール管理に、共同研究の補佐、それに二十四時間の魔力同期……。これでは、学園での生活と何も変わらないじゃないか」
「変わらない? 違うよ。今までは君の『善意』に甘えていただけだが、これからは帝国の『法律』だ。君が僕の隣を離れることは、今日からこの国の法に背く大逆罪になる」
セオドリックは、レイモンドの肩に深く顔を埋め、独占欲を隠そうともせずに囁いた。
「君が家名よりも僕を選んでいれば、もっと自由を与えられたのに。……残念だよ、レイ。君は自ら、僕の用意した官邸に入ったんだ」
レイモンドは、溜息を漏らしながら目を閉じた。
セオドリックが不機嫌だった理由はこれだ。自分の用意した最高の贈り物(公爵位)を辞退され、結局、実務と権力を無理やり詰め込んだ『側に置くための役職』をひねり出す羽目になったことが、彼には屈辱だったのだろう。
「……自由、か。そんなもの、お前の側にいると決めた時から、とうに捨てているよ」
レイモンドは、己を縛るセオドリックの手に、そっと自身の手を重ねた。
「お前は、少し目を離せば勝手に人の人生を買い取り、国を捨てようとする暴走列車だ。……その手綱を握り続ける責任くらいは、取ってやる。……名誉なことだろう?」
セオドリックが、微かに喉を鳴らして笑った。
その笑い声は、どこまでも傲慢で、しかし愛を確信した幸福な王の響きだった。
