高貴なる生徒会長は、今日も副会長を慈しむ  ~学園の貴公子と没落貴族のすれ違い救済ライフ~





 放課後の生徒会執務室。
 西日が差し込む室内で、レイモンドは最後の一枚の書類に署名を終えた。ペンを置くと同時に、セオドリックから刺さるような視線を感じる。
 セオドリックは先ほどから、一文字も書かずにレイモンドの横顔を、不機嫌そうな瞳で見つめ続けていた。

「……セオドリック。その顔はやめろ。書類仕事が嫌なのは今に始まったことじゃないだろう」
「……仕事のせいじゃないよ、レイ」

 セオドリックは、皇帝の黒い蝋封がなされた一通の書状を、指先で乱暴にレイモンドの方へ弾いた。

「僕は君が望んだ通り、兄君にはアシュクロフト『侯爵』としての家督を継がせた。資産も領地も、ベルツから剥ぎ取った分をそのまま返還したよ。……彼らにとっては、身に余る名誉回復だろうね」

 レイモンドは書状を手に取り、そこに記された兄の名と、侯爵の称号を確かめた。漆黒の瞳に、温かな安堵が宿る。

「……ありがとう、セオドリック。俺には過ぎた慈悲だ。これでようやく、アシュクロフトの名が……両親が守りたかったものが、歴史に繋ぎ止められた」
「……感謝なんて、聞きたくないね」

 セオドリックが、椅子の背もたれを軋ませて立ち上がった。彼はレイモンドの背後に回り込み、逃げ場を塞ぐように両手を机に突く。

「君はいつもそうだ。僕がどれほど無理を言って、君を『公爵』として僕の隣に並ばせようと画策したか分かっているのかい? なのに君は……『自分には分不相応だ、兄に返してくれればそれでいい』なんて、つまらない謙遜で僕の愛を突っぱねた」
「……当たり前だろう。没落した末子の俺が、いきなり公爵なんて。……お前の立場だって危うくなる」
「危うくなる? 誰が。僕の意志に背く奴なんて、この国にはもういないよ」