「私は……私は、この国の秩序を守ろうとしただけだ! ランカスターのような理外の怪物を野放しにすれば、法という名の理が崩壊する……! アシュクロフトの小僧、貴様……私を売ったな! 私という正義を……!」
叫びは、冷たい石壁に跳ね返り、空虚に消えていく。
かつて彼がレイモンドを追い詰める際に浮かべた、あの歪な笑みはもうどこにもない。そこにあるのは、自らが絶対と信じた論理の裏切りに絶望し、老いさらばえた敗北者の姿だけだった。
一方、帝都の新聞紙上では、連日、『記念祭の真実』が報じられていた。
法務大臣ベルツによる魔導回路破壊未遂と、過激派への資金援助。そして、それらを潜入調査によって暴き出した、副会長レイモンド・アシュクロフトの英雄的献身。
没落したアシュクロフト家に対する皇帝からの名誉回復と遺領返還の勅命が下されたというニュースは、瞬く間に帝国中を駆け巡った。
ベルツ派の貴族たちは、蜘蛛の子を散らすように逃げ出し、あるいは掌を返してセオドリックへの忠誠を誓い始めている。
ベルツがかつてレイモンドに囁いた言葉。
『この国は、法という迷宮でできている』。
確かにその通りだった。
だが、その迷宮の出口は、もはやベルツには一生見つかることはない。彼は自らが積み上げた条文という名のレンガに囲まれ、その沈黙の中で、ゆっくりと、しかし確実に、歴史の塵へと変わっていくのである。
独房の外では、看守の冷たい足音が響いていた。
ベルツは、最後の一枚となった判決文を握りしめ、灰色の空を仰いだまま、枯れ果てた声を絞り出した。
「……セオドリック、フォン、ランカスター……。貴様は、法さえも……愛に、変えたのか……」
