セオドリックは一歩踏み出し、レイモンドの視線を逃がさないようにその瞳を覗き込む。
「ケーキは、君の好きな店で特注した。飲み物も、君の口に合うハーブティーを用意してある。……君を困らせたいんじゃない。ただ、僕が君を祝いたいだけなんだ」
レイモンドは、拳を握りしめた。
セオドリックの瞳にあるのは、純粋な親愛だ。それは、没落した自分を救い上げたあの日の光と同じ、淀みのない輝き。
それを「迷惑だ」と切り捨てることは、今の自分を否定することに等しかった。
「……一度だけだ」
レイモンドは顔を背け、消え入りそうな声で呟いた。
「……今回だけだ。……それと、このケーキを食べたら、すぐに帰らせてもらうぞ」
「ああ、もちろんだよ! ありがとう、レイ!」
セオドリックの顔に、弾けるような笑顔が浮かぶ。
それからは、奇妙なほどに穏やかな時間だった。セオドリックは無理に話を振ることもなく、ただ隣で、穏やかに学園の未来について語った。レイモンドは終始「……チッ、甘すぎる」「次はやるなよ」と毒づきながらも、用意されたケーキを、最後まで口にした。
パーティーが終わる間際。
片付けを始めたセオドリックの背中に、レイモンドは誰にも聞こえないような小声で、けれどはっきりと告げた。
「……セオドリック。心配しなくても、俺は生徒会をやめたりしない。だから、来年はこんな、回りくどいことはするな」
セオドリックは、手を止めて振り返った。そして、心底不思議そうに、けれど幸福そうに笑った。
「下心があると思ったのかい? 違うよ。……僕はただ、君を祝いたかった。本当にそれだけなんだよ、レイモンド」
言葉の最後に、自分にだけ聞こえるほどの声で囁かれた名前。
その柔らかな声色に、レイモンドは今度こそ、完敗を認めるように深く溜息をついた。
窓の外、夜の帳が下りた学園に、静かな秋の星が瞬き始める。
相容れない光と影。
けれど、こんな関係も悪くないかもしれないと、レイモンドは認めざるを得なかった。
To be continued.
