――戦いは混戦を極めた。
本来、複数人の強化人間を相手に無傷でいられるはずもない。だが、レイモンドの影は、彼自身の焦燥と決意を吸って、より鋭く、より冷酷に舞った。
肩を貫かれ、脇腹を焼かれる劇痛。一秒ごとに視界から色が失われ、心臓の鼓動が遠のいていく。
それでもレイモンドは、影の代償として激しく吐血しながらも、その動きを止めなかった。
(……セオドリック……、お前の光は、こんなところで消させない!)
レイモンドはわざと敵の刃を左肩で受け、その隙に影の杭を三人の胸元へ叩き込んだ。
「……沈め。ここは、お前たちの居場所じゃない」
最後の一人を壁に釘付けにし、処刑人たちが沈黙した時、抹殺陣のタイマーは最後の一分を刻んでいた。
レイモンドはふらつく足取りで装置に駆け寄り、全ての知識を動員して解除を試みる。指先が、機械仕掛けの回路を狂ったように叩く。
だが、信管は物理的にロックされ、もはや停止は不可能だった。
(……ならば、せめて!)
レイモンドは、最悪の、苦肉の策を選択した。
指向性魔導抹殺陣の標的――その『指向』を、会場の数千人から、目の前の、自分一人へと物理的に書き換えたのだ。
レイモンドは、感覚を失いつつある右手の指先を、灼熱の回路の奥深くに突っ込んだ。
「……ぐ、あああああああ!!」
機械が放つ高熱と、命を吸い取る『影喰』の代償が激突する。
ジャミングの反動、呪いの苦痛。そして、本来なら数千人の魔導師を廃人にするはずだったエネルギーの奔流が、レイモンドの右腕一本へと逆流し、彼自身の回路を内側から焼き潰していく。
遠のく意識の中で、レイモンドはセオドリックのことを思った。
あいつは本当に、救いようのない馬鹿だ。……俺がこれほど、泥に塗れて戦っていることさえ、知らずに光の中にいる。
レイモンドは、もはや光の見えない地下で、一人静かに微笑んだ。
自分は裏切り者として歴史に残り、あいつは悲劇の英雄として、その輝かしい魔力を保ったまま光の中へ戻る。
それでいい。
そのために、俺は影になったのだから。
彼はその全てを防波堤として引き受け、内側から装置を破裂させた。
