高貴なる生徒会長は、今日も副会長を慈しむ  ~学園の貴公子と没落貴族のすれ違い救済ライフ~


 大講堂がセオドリックの拘束という未曾有の衝撃に揺れる中、レイモンドはベルツに「魔導核の最終停止(シャットダウン)を確認してくる」と短く告げ、混乱の渦を抜けて単身地下へと姿を消した。

 レイモンドは、地下へと続く石階段を駆け下りながら、数分前の凄惨な光景を苦い思いで反芻していた。


 ――結界が霧散した直後、ベルツの手の者が放った『魔力減衰ウイルス』。それは肉体を傷つけるものではなかったが、より根源的な絶望を学園に撒き散らした。
 ミレイを始めとした生徒たちが、拘束されるセオドリックを助けようと必死に指先を伸ばし、詠唱を口にする。だが、どれほど練り上げようとしても魔力は指先から霧散し、術式は火花一つ散らさずに立ち消えた。

 杖はただの木の棒になり、天才たちの叡智はただの無力な叫びに変わる。その「魔法が不発に終わる」という圧倒的な喪失感こそが、会場を極限の混乱へと叩き落としたのだ。

「……何をした、ベルツ!」

 詰め寄るレイモンドに、ベルツは歪な笑みを浮かべて答えた。

「セオドリック・フォン・ランカスターという怪物を止めるには、これほどの措置が必要なのだよ、アシュクロフト君」

 嘲笑うベルツに、レイモンドは憤りのあまり言葉を呑み込んだ。

 だが――その時だ。
 レイモンドは、自身の脳内で警報(アラート)が鳴り響くのを感じた。

 彼はこれまで、セオドリックにもベルツにも秘めて、学園中に微小な魔導センサーを張り巡らせていた。
 ウイルスのせいで外部通信は死んでいるが、遮断される直前のログ――学園の物理振動の異常値が、彼の演算回路に、最悪の正解(シナリオ)を導き出した。

(――やはりな。ベルツめ、セオドリックを捕らえるだけでは満足できなかったか!)