二人は並んで学園内を歩いた。
かつて隠密調査で歩いた街角のような、あるいは雨宿りをした古文書室のような、穏やかな時間がそこには流れていた。
セオドリックは生徒たちに気さくに声をかけ、レイモンドはその横で、いつも通りに綻びを修正し、指示を出す。
それは、誰の目から見ても、学園が誇る『最強の双璧』の姿そのものだった。
午前十時。
大講堂は、帝国高官や貴族、数千の生徒たちの熱気で膨れ上がっていた。
最前列には、冷徹な笑みを湛えたベルツ公が、獲物を待つ蜘蛛のように深く椅子に座っている。
「……それでは、生徒会長セオドリック・フォン・ランカスターより、開会の宣言を」
万雷の拍手の中、セオドリックが壇上の中心へと歩み出る。レイモンドはその半歩後ろ、影の位置に立った。
スポットライトの熱が、右手の薬指に嵌まった指輪に反射する。
セオドリックが口を開きかけた、その瞬間。
レイモンドは、指輪を通じて最大出力のジャミングを解放した。
――キィィィィィィン!
耳を劈くような不協和音がスピーカーから放たれ、会場の照明が激しく点滅する。
同時に、学園を包んでいたラプラスの守護結界が、魔力の霧となって霧散していった。
「な……結界が!?」
「どうした、何が起きたんだ!」
騒然とする大講堂。その混乱の真ん中で、レイモンドの声だけが魔導増幅され、冷酷に響き渡った。
「――静粛に。その男に、帝国の未来を語る資格はない」
セオドリックが驚愕に目を見開き、ゆっくりと、信じられないものを見るかのようにレイモンドを振り返った。
「レイ……? 何を言っているんだい?」
「黙れ、セオドリック。……貴様がランカスターの威光を傘に着て、この学園を私物化し、軍事機密を外部へ流出させていた証拠は、すべてこの中にある」
