言葉が、消えた。
そこには一年生など一人もいなかった。部屋は薄暗く、カーテンが閉め切られ、暖炉の火だけが静かに爆ぜている。中央のテーブルにあるのは、教科書ではなく、丁寧にデコレーションされたチョコレートのケーキ。
そして、セオドリックと、数人の生徒会のメンバーだけが、まるで深夜の礼拝のように、静かに待ち受けていた。
「……あ、……」
声が出ない。教えるべき後輩もいなければ、騒がしい歓声もない。
セオドリックは、レイモンドが人前を嫌うことも、大義名分があれば必ず来ることも、すべて完璧に理解した上でこの罠を仕掛けたのだ。
「誕生日おめでとう、レイ。……嘘をついてごめん。でも、こうでもしないと、君は今日という日を、一人でやり過ごしてしまうだろう?」
ゆっくりと歩み寄ってくるセオドリックに、レイモンドは情けなく唇を震わせた。
もしこれが大勢の生徒を巻き込んだ馬鹿騒ぎなら、怒鳴って帰ることもできた。だが、セオドリックはレイモンドの嫌いなものを排除し、断れない理由を突いて、この静寂な祝宴を用意した。
その完璧すぎる配慮が、かえってレイモンドの逃げ場を、魂の根元から奪い去っていた。
沈黙が、生徒会室を支配する。
「……ふざけるな」
ようやく絞り出した声は、自分でも驚くほど震えていた。
「一年生への指導はどうした。俺は、そのために来たんだ。こんな茶番のために……!」
「レイ。君は、自分の価値を低く見積もりすぎている」
セオドリックは、静かに、けれど揺るぎない口調で告げた。
「君が日々こなしている膨大な仕事。僕の目が届かない場所で、君がどれほど学園を支えているか。……それを、一年に一度くらいは、僕たちに感謝させてほしい。これは僕のわがままなんだ。頼むよ」
