それは、最悪の誤解であり、最高の信頼だった。
セオドリックにとって、この裏切りの代償である痣さえも、「自分を支えるために無理をした誇り高い傷」に見えているのだろう。
「セオドリック……。もしも……もしも明日、何かが起きて、お前がその理想とする光をすべて失うようなことがあっても……お前は、お前自身を信じられるか?」
レイモンドは、激しい自己嫌悪を押し殺し、最後の『警告』を投げかけた。
セオドリックは、レイモンドの痣がある手首にそっと唇を寄せると、慈しむように囁く。
「いいや。僕は自分なんて信じていないよ。……僕は、僕の理想を実現しようとする『君』を信じているんだ。だから、もし世界が僕を拒んでも、隣に君さえいれば、そこが僕の新しい王国になる」
セオドリックは、レイモンドの薬指にある指輪を、そっと撫でた。
「君がこの指輪を嵌めている限り、僕たちは一つだ。……さあ、もうお休み、僕の誇り高い守護者。明日、最高の景色を君に見せよう」
セオドリックが部屋を去り、再び静寂が訪れる。
一人残された執務室で、レイモンドはデスクに置かれた一枚の名簿を、指が白くなるほどに握りしめた。
そこには、明日『反逆者』として拘束されるべきリストの筆頭に、自らの名が記されていた。
窓の外で、一際大きな雷鳴が轟いた。
青白い閃光が、レイモンドの頬を伝う一筋の雫を、一瞬だけ白く光らせる。
「……ああ、お前は本当に、救いようのない馬鹿だな。――セオドリック」
崩れ落ちるように名簿に顔を埋め、レイモンドは独り、訪れるはずのない夜明けを待った。
