まるで「次の週末に何を食べるか」を相談するような軽さ。
だが、その言葉はレイモンドの心臓に鋭く突き刺さった。
「君なら、僕を裏切る悪役をどんな風に演じるかな? 『セオドリック、お前は間違っている!』なんて、冷たい声で言ってくれるんだろうね。……想像するだけでゾクゾクするよ。ねえ、レイ。ちょっとだけやってみてくれないか?」
「…………っ」
レイモンドは、ペンを折らんばかりの力で握りしめた。
あまりのタイミングの悪さに、一瞬、「俺を、試しているのか?」という被害妄想が頭をよぎる。
だが、目の前の碧い瞳にあるのは、どこまでも純粋な、親友への信頼だけだった。
セオドリックは冗談のつもりだ。いつもの「大がかりなサプライズ」の一環として、無邪気に楽しんでいる。
だが、レイモンドがこれから本当に行おうとしているのは、その『冗談』を無慈悲な現実へと変え、この光り輝く原稿を泥に塗れさせることなのだ。
「……よせ、セオドリック。悪趣味だ。縁起でもない」
声が震えないよう、喉の奥を固く締めた。
セオドリックは「冗談だよ」と笑いながら、レイモンドの右手に触れようと手を伸ばした。
レイモンドは咄嗟に手を引く。
「おや、冷たいね。……あまり根を詰めないでくれよ。君がいる限り、僕の王国は揺るがない。君が僕の隣にいてくれる。それだけで、僕は世界中のどんな悪意も、ただの余興に変えてしまえるんだ」
セオドリックは満足げに紅茶を啜り、レイモンドを信頼しきった瞳で見つめた。
その信頼が、今は何よりも深く、胸を抉る。
レイモンドは悟った。自分は、この男が信じる『美しい世界』を一時的に壊してでも、彼を死から救わねばならない。
そのために、世界で一番惨めな悪役を、本番で演じきらなければならないのだと。
