――翌朝。
生徒会執務室。
レイモンドはいつも通りデスクに向かっていた。だが、昨夜の無理な隠蔽の代償――魔力の逆流――によって、右手の指先には痛々しい紫色の痣が浮かんでいる。
「……レイ。おはよう。昨夜はよく眠れなかったのかい?」
不意に、背後からセオドリックの声がした。
碧い瞳が、書類をめくるレイモンドの、隠しきれない右手の痣をじっと見つめている。
「……業者の手抜きを見つけたのでな。徹夜で再計算をさせ、現場を叩き直していただけだ。……問題ない」
「そう。……けれど、不思議だね。昨夜、一瞬だけ僕たちの『繋がり』が、死んだように凪いだ気がしたんだ。まるで君が、この世界のどこにもいないような寂しい感覚。……学園の防衛術式が、雨の湿気でノイズでも吐いたかな?」
セオドリックは微笑みながら、レイモンドの右手を取ろうとした。
レイモンドは反射的に手を引く。
「……触るな。お前、ベニエを食べたあと、手を洗ってないだろう。油がつく」
「……副会長」
その時、隅で控えていた書記のミレイが、震える声で尋ねた。
「あの……昨夜、旧校舎の方へ向かわれるのをお見かけしました。やはり、私たちのために、一人で全てを背負い込まれていたのですね。何か、お手伝いできることは……」
室内の役員たちが一斉に、敬愛と申し訳なさを込めた視線をレイモンドに送る。
レイモンドは冷淡に、だが有無を言わさぬ正論を吐いた。
「……見ていたなら話が早い。お前たちが祝祭の空気に浮かれ、チェックを疎かにするから俺が動く羽目になる。俺の手を煩わせたくないなら、招待客リストを今のうちに叩き直しておけ」
ミレイは「やっぱり、私たちのために……」と顔を赤らめて頭を下げ、他の役員たちも活気を取り戻して作業に戻った。
――これでいい。信じろ、そして騙されていろ。
レイモンドはデスクの下で、痺れの残る右手を、自らの罪を噛みしめるように強く握りしめた。
その様子を、セオドリックだけが、射抜くような慈愛の瞳で見つめていた。
