セオドリックは、拒絶を許さぬ力でレイモンドの右手を掴んだ。
その薬指に、自分の指から抜いたばかりの、まだ熱い指輪を押し込む。
「……セオドリック。お前、おかしいぞ。……俺は、アシュクロフトだ。没落した俺に、こんな指輪――。俺に背後を狙われる可能性は考えないのか」
「君が僕の背後を狙う? ははっ、また面白い冗談だ! ああ、だがそれも悪くない。君の手で死ねるなら本望だ。……でも、君はそんなことはしない。誰よりも高潔で、不器用な僕の守護者。……だからね、レイ。そんな冗談を言って、自分を傷付けるのはやめるんだ」
指輪が嵌められた瞬間。
レイモンドの意識を、暴力的なまでの魔力の奔流が突き抜けた。指輪を通じて学園の巨大な魔導回路と精神が強制的に同期される。
本来なら技術者として恍惚を感じるはずのその全能感は、今のレイモンドには拷問でしかなかった。
重い。
物理的な重量以上に、指輪に込められたセオドリックの執着が、レイモンドの神経を焼き、魂を縛り上げる。
「……あ、あ。……わかった。預かっておく」
レイモンドは、指輪の感触を確かめるように拳を握りしめた。
脳裏には、ベルツ公の冷酷な言葉が蘇る。
『指輪の所有権が移る瞬間、認証が揺らぐ。その隙を突け』
レイモンドが指輪を預かるという事実は、ベルツにとって「学園の全権が手に入った」に等しい。
「ありがとう。……さあ、少し休憩しよう。今日はミレイが、君の好きなビターチョコレートのベニエを用意してくれたんだ」
セオドリックは満足げに椅子に座り、何も知らない幸福な子供のように微笑んだ。
レイモンドは、その笑顔から逃げるように、視線を窓外の暗闇へと投げた。
指輪が、脈打つように熱い。
彼は今、取り返しのつかない、裏切り者としての力を手に入れてしまったのだ。
