そして、記念祭を三週間後に控えた、ある静かな夜のことだった。
学園は深い静寂に包まれ、冷たい月光が回廊の床を青白く照らしている。
生徒会執務室の窓際。セオドリックは、月を背にして立っていた。金色の髪が銀色の光を吸い込み、その姿は神話に語られる騎士のようにも、あるいは生贄を待つ怪物のようにも見えた。
「――レイ。最近、君は少し無理をしているね」
セオドリックが、穏やかに口を開いた。
レイモンドは書類を整理する手を止めず、冷淡に返す。
「……いつものことだ。お前のわがままを形にするには、これくらいの労働が必要なだけだ」
「ははは、相変わらずだ。……だが、そんな君だからこそ、僕はすべてを預けられる」
セオドリックが、ゆっくりと歩み寄ってきた。
彼は自分の右手を差し出す。そこには、銀碧の学園守護の指輪があった。
「レイ。これを、君に持っていてほしいんだ」
「……どういう意味だ」
レイモンドの声が、微かに震える。
セオドリックは、自らの左手でその指輪を――自らの体温と魔力を帯びたままのそれを――ゆっくりと引き抜いた。
セオドリックの指から外された指輪は、一瞬、頼りなげに月の光を反射する。
「記念祭の当日、僕は演壇に立ち、帝国の新時代を宣言する。その時、僕は無防備になる。……だから、僕の命であるこの学園の門を、君に守っていてほしいんだ。君以外の誰にも、僕の背後を預けることはできない」
