「……っ、やめろ。仕事の邪魔だ」
「嫌だね。君は自分の限界を計算に入れるのが、驚くほど下手だから。……レイ。何か困っていることがあるなら、いつでも言ってくれ。君の苦悩は、僕の苦悩だ。僕がこの指輪を預かっているのは、この学園を守るため……そして、君のような大切な人間を、僕の目の届く場所に留めておくためでもあるんだから」
セオドリックの瞳は、どこまでも澄んでいる。
その全幅の信頼という光が、今は何よりも恐ろしかった。
彼は、レイモンドが自分を裏切るなどという可能性を、微塵も、一分一秒も考慮していない。
レイモンドは強引に手を引き抜き、視線を虚空へ投げた。
内ポケットには、ベルツ公への承諾を記した返信が、数日前から入ったまま――それが、罪悪感を強める。
「……心配するな、セオドリック。俺は、俺のなすべきことをしているだけだ」
――お前を救うために、お前の理想を汚す。
レイモンドは心の中で、その言葉を飲み込んだ。
