翌週――木曜日の朝。
カレンダーを見るまでもない。今日は、一年で最も忌々しい日だ。
レイモンドは鏡の前で、自分の死相を確認するように覗き込んだ。
(……今日という一日が、凪のように、無味乾燥に過ぎ去ってくれ)
祈るような気持ちで、寮の部屋を出る。
彼がこれほどまでに何事もないことを欲するのは、彼の生い立ちに理由があった。
レイモンド・アシュクロフト。かつて魔道具製作でその名を大陸中に馳せながらも、政争に敗れて没落したアシュクロフト侯爵家の末子――それが、彼の正体だ。
十年前の今日――両親が他界し、家門が没落したあの日。幼い彼を包囲したのは、大衆からの無遠慮な憐れみと好奇だった。
善意という名の泥靴で心を踏み荒らされた記憶が、彼を極度の人間不信へと追い落としたのだ。
「レイ」という短い通称は、忌まわしい過去に紐付く「レイモンド」という名を、周囲の目から誤魔化すための苦肉の策でもあった。
そんな彼が、なぜ学園の象徴たる生徒会に入っているのか。
それは、一年前。他でもないセオドリックから、直接声をかけられたからだ。
「君のその、鋭い観察眼と、冷静な判断力。……その力を、僕に貸してくれないかな」
全校生徒の憧れの的。ランカスター公爵家の嫡男、セオドリック。高貴なる彼が、誰にも見向きされずに図書室の隅で蹲っていたレイモンドを見つけ出し、副会長の座に誘ったのである。
レイモンドは拒絶した。だがセオドリックは引かなかった。レイモンドがどれだけ逃げても追いかけてきた。
「君が表に出る必要はない。汚れ仕事も、矢面に立つのも全部僕がやる。君はただ、僕の影で、僕の目が届かない場所を支えてほしいんだ」
その瞳には、かつて彼を苦しめた憐れみなど微塵もなかった。あったのは、冷徹なまでの実力への信頼と、呆れるほどの純粋な期待だけだった。
気づけばレイモンドは、その眩しさに逆らえず、副会長としての契約書にサインしていた。
