手紙を持つ指先から体温が消えていく。
セオドリックに相談するべきか?
……いや、不可能だ。レイモンドの脳は、冷酷なまでにその結末を演算してしまう。
あの善意の暴走列車であるセオドリックにこれを話せば、彼は間違いなく笑って言うだろう。
『君が助かるなら、僕は全てを捨てよう』と。
そして、ベルツはそれこそを待っている。セオドリックが、家門の犯罪を知りながら、一介の生徒を救うために隠蔽を図った――という事実……それこそが、彼を葬り去るための、完璧な毒となる。
セオドリックを救うには、彼を共犯者にしてはならない。
彼の知らないところで、彼が愛した信頼できる友を、自らの手で殺すしかないのだ。
「……俺ひとりで……何とかするしかない」
握りしめた手紙が、クシャリと絶望の音を立てた。
窓の外、晩春の夕闇が学園を飲み込んでいく。
レイモンド・アシュクロフトの、たった一人で地獄を歩む二ヶ月が、今、始まった。
