「レイ。……今日は、僕の人生で最も充実した一日だったよ」
セオドリックの声は、自分でも驚くほど低く、熱を帯びていた。
レイモンドは窓の外に流れる夜景から視線を戻し、わずかに眉を寄せて鼻で笑う。
「……仕事としての調査を忘れて、一日中道草を食っていただけだろうが。お前の充実の基準はどうなっているんだ。呆れるな」
「基準なら、今日書き換えられたよ。……誰にも期待されず、誰の目も気にせず、ただ君が隣にいてくれる。それだけで、世界はこれほどまでに色鮮やかに見えるのだと、初めて知った」
セオドリックは身を乗り出し、レイモンドの膝の上に置かれた手に、そっと自らの手を重ねた。
レイモンドは一瞬、弾かれたように肩を揺らしたが、拒絶はしなかった。ただ、居心地が悪そうに視線を泳がせ、吐き捨てるように言った。
「……当たり前だ。お前を放っておいたら、この国が滅びるからな。……俺がいないと、お前は一歩もまともに歩けないだろう」
「そうだね。君の言う通りだ、レイ」
その言葉を聞いた瞬間、セオドリックの視界から、すべての迷いが消え失せた。
(ああ……決まりだ。やはり、君しかいない)
レイモンドの「当たり前だ」という言葉。それはセオドリックにとって、世界で最も甘美な肯定だった。
彼は僕を見捨てない。没落し、何もかもを失ったからこそ、彼は僕という「光」の危うさを正確に理解し、その隣にいることを自らの義務だと受け入れたのだ。
