石畳を叩く馬の蹄の音が、夕闇のヴィニョーラに心地よく響いていた。
帰路につく辻馬車の中、セオドリック・フォン・ランカスターは、反対側の座席で窓の外を眺める親友の横顔を、静かに見つめていた。
街灯の明かりが、レイモンドの艶のない黒髪に、小さな星を灯しては消していく。
今日の自分は、ひどく無様だったはずだ。食べ歩きに夢中になり、馬車に轢かれそうになり、挙句の果てには子供のように服を汚した。
公爵家の跡取りとして育てられたセオドリックにとって、それは本来、決して許されない隙だった。
(……だが、レイは失望しなかった)
彼はただ、呆れたように舌打ちをし、汚れた頬を拭い、当然のように僕の手を引いてくれた。
帝国の重鎮たちが求める完璧な後継者としてのセオドリックではなく、欠落だらけで、迷子のような僕を、彼はその深い夜のような瞳で真っ直ぐに見てくれたのだ。
セオドリックの胸の奥で、熱い塊がゆっくりと溶け出していく。
それは、これまで味わったことのない、暴力的なまでの安らぎだった。自分という巨大な魔力と責任の器を、たった一人、レイモンドという男だけが、人間のサイズに繋ぎ止めてくれている。
セオドリックは、自らの内に芽生えたこの奇妙な情熱を、ただの友情と呼ぶにはあまりに重すぎると感じていた。
だが、同時に確信していた。この重さこそ、自分がずっと求めていたものなのだと。
