レイモンドは、拭っていた手を止め、隣の男を凝視した。
陽光を浴びる金髪。碧い瞳に宿る、隠しようのない孤独と信頼。
この男は、あまりにも眩しすぎて、同時にあまりにも脆い。
自分がこの手を離せば、こいつはまた、あの「完璧という名の檻」へと戻り、国の重圧に潰されるのを待つだけになるのだろう。
没落し、地這うような現実を知る自分だけが、この浮世離れした天才を繋ぎ止めておけるのだ。
「……ふん。お前がただの馬鹿なら、俺もこれほど苦労はしない。……せいぜい、俺の目の届く範囲でだけ、その情けない顔をしていろ」
レイモンドは、突き放すような言葉とは裏腹に、そっとセオドリックの肩を叩いた。
セオドリックは驚いたように目を見開き、それから、これまでで見せたどんな微笑よりも穏やかに笑った。
「ああ。……そうするよ、レイ。君だけは、僕を離さないでいてくれるんだね」
夕暮れの気配が広場に忍び寄る。
影が長く伸び、二人の境界線を曖昧に塗りつぶしていく。
レイモンドはまだ気づいていなかった。この一時の許しが、セオドリックの中にある執着の種に、どれほど猛烈な栄養を与えてしまったのかを。
