ヴィニョーラ中央広場。巨大な噴水の音だけが響くベンチに、二人は腰を下ろしていた。
歩き詰めだったセオドリックは、まるで大仕事を終えた騎士のように、深く背もたれに体を預けている。その膝の上には、先ほど調査のついでという名目で購入した、庶民的な揚げ菓子・ベニエの包みが置かれていた。
「……はあ。驚いたな。街を歩くことが、これほどまでに体力を使うものだとは」
「当然だ。お前はいつも、ふかふかの馬車か、赤絨毯の上しか歩かないんだろう。……ほら、顔に粉がついてるぞ。次期宰相がそんな面を晒すな」
レイモンドは呆れ果てたように吐き捨て、懐から取り出した布で、セオドリックの頬を無造作に拭った。
普通の貴族なら不敬だと激昂するような行為だ。だが、セオドリックは避けるどころか、心地よさそうに目を細めて、レイモンドの乱暴な手つきを受け入れている。
「……君は、優しいね、レイ」
「……嫌味なら他で言え」
「嫌味なものか。……みんな、僕のことを『ランカスターの至宝』だとか、『完璧な後継者』としてしか見ない。僕が道端で転びそうになっても、彼らは僕を助ける前に、完璧な僕が失態を犯したことに絶望するだろう」
セオドリックは、噴水の水面に反射する光を見つめながら、独り言のように続けた。
その声には、学園で見せるような王者の威厳はなく、どこか寄る辺ない少年の震えが混じっている。
「でも、君だけは違う。……君は僕を『馬鹿』だと罵り、手を引いて、汚れを拭ってくれる。君の隣にいる時だけ、僕は……ただのセオドリックでいられる気がするんだ」
