高貴なる生徒会長は、今日も副会長を慈しむ  ~学園の貴公子と没落貴族のすれ違い救済ライフ~


「おっと……すまない、レイ。君が隣にいてくれると思うと、つい周囲への警戒を忘れてしまうね」
「……お前の理性とやらは、正門を出た瞬間に消滅したのか? 調査はどうした、調査は。不審な魔導波動を探しに来たんだろうが」
「もちろん、忘れていないよ。ただ、この街の空気そのものが、魔導素子の揺らぎ以上に僕を刺激するんだ。……あ、レイ、あそこにあるのは何だい? 最新式の魔導写真機じゃないか!」

 セオドリックが指差した先には、木製の大きな暗箱を構えた、街のカメラマンがいた。
 家族連れや恋人たちが、照れくさそうにレンズの前で足を止めている。セオドリックは、その「一瞬を切り取って銀塩板に定着させる」光景を、何かに打たれたように凝視していた。

「……ふん。あんなもの、今や珍しくもないだろう。没落した俺の家でさえ、十年前のモデルがあった」

 レイモンドが瞳に寂寥(せきりょう)を滲ませ、呟くと、セオドリックは、じっとレンズを見つめたまま、静かな声で言った。

「一瞬を、永遠にする……か。……素晴らしい技術だね、レイ。僕たちの『今』も、あんな風に形に残せたら、どんなにいいだろう」
「……言ってろ。さあ、行くぞ。これ以上お前の道草に付き合わされるのは御免だ」

 レイモンドは、握っていたセオドリックの腕を離さず、むしろその力を強めて、人混みの奥へと歩を進めた。
 背後でセオドリックが、どこか満足げに笑った気配がした。

 この男は、自分がいなければ一歩もまともに歩けない。
 レイモンドの中に芽生えた自負は、彼自身がセオドリックという巨大な光の檻に、自ら足を踏み入れている事実を巧みに隠していた。