学術街ヴィニョーラ。そこは、最新の魔導技術と、泥臭い庶民の活気が奇妙に混ざり合う街。
石畳の両脇には、焼きたてのパンやスパイスの香りを漂わせる屋台が並び、号外を配る少年の叫び声が響き渡っている。
「レイ! 見てくれ、あの機械を。……あれは、蒸気で自動的に果実を絞る装置かい? 非常に非効率で、実に愛らしい動きだ!」
「……放っておけ。ただのジュース屋だ。いちいち立ち止まるな」
レイモンドは、自分の服の裾をぎゅっと掴んで離さないセオドリックを、半ば引きずるようにして歩いた。
帝国の法律や経済理論を完璧に修めているはずの天才が、たった一枚の硬貨で買える娯楽に、幼子のような好奇心を注いでいる。その姿は、レイモンドにはひどく危ういものに見えた。
「おい、セオ! そっちは馬車道だと言っているだろう。……こっちに来い、この馬鹿!」
危うく荷馬車と接触しそうになったセオドリックの腕を、レイモンドは強引に引き寄せた。
掴んだ腕は、見た目よりも逞しく、それでいて驚くほど無防備に、レイモンドの導きに身を任せている。
没落し、独りで生きる術を身につけてきたレイモンドにとって、この男の無防備さはほとんど罪悪に近い。
