窓の外から差し込む朝日が、ラボの床を白く染めていた。
レイモンドは、重い瞼をこじ開け、机に突っ伏していた体を起こした。首の骨が嫌な音を立てるが、目の前の完成品を見れば、そんな痛みも吹き飛んだ。
「……できた」
昨夜の暴走回路は跡形もない。セオドリックの巨大な魔力を、幾重ものバイパスで完璧に分散・再構築した、究極の安定型結界。
ふと、背後に気配を感じた。
「おはよう、レイ。……君の言う通りだ。朝日の中で見るこの回路は、どんな宝飾品よりも美しい」
いつの間にか起きていたセオドリックが、いつもの完璧な笑顔を浮かべて立っていた。寝起きだというのに、その佇まいには一糸の乱れもない。
「……これでお前の無茶な夢想も、安全に実行できる。……喜べ、これで発表会は成功だ」
レイモンドがそう言い切った瞬間、セオドリックの瞳に、ひときわ強い光が宿った。彼はレイモンドの手を、両手で包み込むように握りしめた。
「ああ、もちろんだとも。……だが、それ以上に嬉しいことがあるんだ。レイ、君は徹夜をしてまで、僕の魔力を受け入れるために心血を注いでくれた。……僕がいないと、この魔導具は完成しなかった。そして、君がいなければ、この魔導具は爆発していた。……この世界に、これほど完璧な補完関係が他にあるだろうか?」
「……お前、また大げさなことを……」
レイモンドは毒づきながらも、握られた手の熱を振り払えなかった。
自分の価値を、この男だけが正確に評価している。その事実が、心地よい呪いとなって身体に染み込んでいく。
「僕はね、夜明けに君の作業する背中を見て、決めたんだ。……君という稀代の盾を、もっと大切にしなければならない、とね」
セオドリックは、さらに一歩、レイモンドとの距離を詰めた。
それは、友人としての親愛の距離か。あるいは、宰相が自らの領地を確認する執着の距離か。
「だからね、レイ。……発表会が終わったら、僕と一緒に次の段階へ進もう。……僕たちの力を合わせれば、この国の仕組みさえ書き換えられる」
「……は?」
レイモンドの困惑をよそに、セオドリックの微笑みは、朝日を浴びてさらに眩しく輝いた。
