セオドリックの言葉に嘘はなかった。
彼は未来の宰相として、常に与える側であり導く側だった。だが今、この瞬間だけは、レイモンドという存在に自分のすべてを預け、支えられている実感を噛み締めている。
「……勝手にしろ。俺はもう、指一本動かす気力もない」
毒づきながらも、レイモンドは抵抗するのをやめた。
セオドリックから伝わる体温と、かすかな魔力の残滓が、不思議と不快ではなかったからだ。むしろ、自分がいなければ、この完璧な男は完成しないのだという自負が、レイモンドの胸を満たしていた。
やがて、極限の疲労に耐えかねたレイモンドの意識が、微睡みの中に沈み始める。
セオドリックは、腕の中で眠りに落ちた友人を、割れ物を扱うような手つきでソファーへと運び、自分もその隣に腰を下ろした。
窓の外では、夜明け前の蒼い光が世界を塗り替えようとしている。
セオドリックは、眠るレイモンドの、白く長い指先をじっと見つめた。
(この指が、僕の暴風を鎮め、この知性が、僕の孤独を埋めてくれる。……やはり、僕が君を独占するのは、もはや権利ではなく義務だ)
セオドリックは、眠るレイモンドには聞こえないほど小さな声で、慈しむように呟いた。
「おやすみ、僕の『錨』。……君が僕を支えてくれるなら、僕は君のために、どんな理想郷でも作ってみせるよ」
その瞳に宿ったのは、信頼よりも、もっと深く、暗く、それでいてこの上なく純粋な、独占という名の慈愛だった。
